集古会の会員名簿『千里相織』の凄さ
拙noteで度々言及しているトム・リバーフィールド編、書物蔵監修『昭和前期蒐書家リスト』(2019年)に収録されている名簿のひとつに集古会の会員名簿である『千里相織』がある。『昭和前期蒐書家リスト』には『千里相織』に掲載されている人物の名前、住所、蒐集分野が記載されているので、多くの蒐集家名簿と同じようにこれらしか載っていないと考えていた。しかしながら、最近、人物によっては生年月日や出身地のなども載っていることを知って現物を確認してみた。私は様々な蒐集家名簿を読んできたが、この『千里相織』は私が知る限りでは、蒐集家の情報量はトップクラスに豊富で貴重な資料となっている。
『千里相織』は復刻されており、書誌研究懇話会編『書物関係雑誌細目集覧』一(日本古書通信社、1974年)に収録されている。この名簿を確認したところ、私が気になっていた何名かの蒐集家や研究者の詳細な情報が載っていた。以下にその部分を引用してみたい。
一 出生地
二 現在の住所
三 職業
四 研究の事項
五 蒐集分野
六 雅号、別名
武藤喜乙 明治二十年七月二十七日生
一 東京府八王子市
二 日本橋区江戸橋一丁目八番地ノ三
三 長唄清元稽古本出版元卸
四 土俗風俗、郷土藝術等
五 すべての趣味品、郷土玩具、此頃は特に土鈴、お多福、猪
六 武藤喜邦
上松蓊 明治八年七月十三日生
一 福島県若松市
二 東京市品川区大井北浜川町千百四番地
三 医学より細菌学、貿易商より会社員、(何れも御選択被下度候)現在無職
四 生物学の一端、ホンのチョッピリ
五 従前は支那陶磁器及び和漢の瓦常なりしが一切打捨てて机に獅噛み付くのみ
六 書室を有漏書屋と称す
小西石蔵 明治十八年十月十一日生
一 徳島市
二 京都市中京区壬生松原町
三 友僊染
四 性に関する、手拭に関するもの
五 鯰に関する物、火の用心、げて物
六 卜鯰爺
前田長三郎 明治十六年二月二十五日生
一 堺市
二 堺市少林寺町東一丁目五ノ三
三 無職
四 石器、土器、古瓦、短冊其他
五 右同断
六 文林、苔瓦園
菅竹浦 明治十三年九月十四日生
一 岐阜県大垣
二 神戸市宮本通六丁目五十二
三 医師
四 (一)狂歌 (二)俚諺 (三)年中行事 三種とも著述あり、目下編撰中のものに狂歌史と年中行事書目解題
五 狂歌本、年中行事書、俚諺に関するもの
六 菅稲吉竹浦(旧号髑髏の名にて狂歌の著あり)
井花伊左衛門 明治二十一年十一月二十八日生
一 住所と同一
二 滋賀県高島郡西庄村大字蛭口
三 農
四 何もありません
五
六 幼児伊三と云いしも父の亡後父祖の名をつぐ
村田光彦 明治十五年一月一日生
一 東京府
二 八王子局区内千本木五九四
三 無業
四 俳諧(此節は下火)
五 土俗に関する事、古本其他雑多な蒐集
六 通称鈴城、俳名すすしろ庵止立
※筆者により現代仮名遣いにあらためた。
上松蓊は南方熊楠の研究を手伝うなど熊楠と深い交流があった人物である。また、菅竹浦、井花伊左衛門、村田光彦(鈴城)は加賀紫水の発行していた『土の香』に投稿していたので関心を持っていた。このことは私が発行した調査趣味誌『深夜の調べ』第1号で紹介した通りである。