江戸文化研究者・松川弘太郎の編集していた雑誌『江戸時代語研究』
以下の記事で江戸文化研究者・松川弘太郎が編集していた雑誌『江戸往来』に関して紹介したが、松川の編集していた雑誌は他にもいくつかある。その中のひとつが今回紹介したい『江戸時代語研究』である。
国会図書館サーチで確認すると、『江戸時代語研究』は研究機関や図書館にあまり所蔵がないようである。以下にこの雑誌の第1巻第1号(江戸採訪会、1935年2月)の写真を掲載しておきたい。
『江戸時代語研究』は1935年に発行が開始されているので、上述の記事で紹介した『江戸往来』より後に発行された雑誌である。『江戸往来』は謄写版印刷であるのに対して『江戸時代語研究』は活版印刷である。第1巻第1号は創刊号であるためか松川の実質的な個人誌となっている。
『江戸時代語研究』の雑誌の内容は、雑誌名が表すように江戸時代のことばを研究や資料の紹介である。松川の「江戸語から東京語へ」によれば、江戸語から東京語に至る変化には伝統的東京語、殖民的東京語、文化的東京語の3つの段階があり、「後世の移入語又は異分子と覚しきものあらば、悉く之を除き、純粋の其土地固有の方言に還元して研究の対象」とする必要があるという。松川は江戸時代の方言を研究することに関して、以下のように述べている。
扨現代の東京語に余り方言的な価値が無く、現代人の記憶に基く方言意識に亦純粋語としての絶対正確性が怪しいものとすれば、最後に残されたる問題は、江戸方言との比較研究である。即ち吾人の方言意識と江戸方言との比較研究である。即ち吾人の方言意識と江戸時代のそれとを比較対照して見て、其處に或程度の一致を見出せば、其訛言なり方言なりは江戸語を母胎とした純粋の東京方言と認めて差支ない譯である。(後略)(一部を現代仮名遣いにあらためた。)
松川は、当時の東京方言の変遷を研究するための一環として江戸時代の方言を研究しようとしていたことが分かる。松川は加賀紫水の編集していた『尾張の方言 続編』(土俗趣味社、1932年)にも方言研究に関する文章を投稿しているので、この時期江戸・東京の方言を中心に方言研究に関心を持っていたのだろう。『江戸時代語研究』は他の号も持っているので、今後も機会があれば紹介していきたい。
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