復刻された蒐集家名簿『和漢楽(わからん)』
以下の記事で紹介したように、『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)は様々な蒐集家、蒐書家名簿を合わせてリスト化したものであるが、この本の書物蔵さんの解説に蒐集家名簿のひとつとして『和漢楽(わからん)』(和漢楽、1930年)がある。私が確認した限りでは、この名簿は国会図書館サーチでも所蔵が確認できずめずらしい名簿であると思われるが、書物蔵さんの解説によると、この名簿は復刻されたことがあるようだ。先日、日本の古本屋でこの名簿の復刻版をみつけて購入したので、以下に写真を掲載したい。
復刻は1970年に箸袋趣味の会によってなされた。この名簿のおもしろい点は蒐集家の名前、住所、蒐集分野だけでなく、その人物の蒐集をはじめたきっかけや理由を掲載している。この名簿を作成したきっかけは以下のように述べられている。
庚午の節分に宝船を配布したのが此の会の出来た因をなしたものか、会が出来て宝船を刷ったのか、鶏と卵の関係同様サッパリワカランが兎も角吾々五人が固まって真面目に趣味的研究を続けたいと言う目的で、この和漢楽会なるものを組織したのである。然し有名無実のものにしたくはない。それにしても諸氏の御批判、御指導、御援助に待つ事は勿論である、研究会もしたい、展観もしたい、懸賞もしたい、古版の復刻もしたい、したい事蓋したがそれが実現されるかされないかはワカラン、只こう言う希望丈は持っている。 / 希望の一つが実現して茲に表題の様な小冊子を編むことになった。第一は蒐集家名鑑とでも呼び度いものだが次号からは研究事項を並べたいと思っている。これも三号雑誌の名丈は御免蒙りたい。毎月発行、隔月発行なんて云う丈で実際行われるものではない。営利目的なれば一ヶ月も先に出版する事が出来るが趣味誌に至っては応々出刊遅れ勝のものだ。動もすれば廃刊の憂目を見るものも尠くはない。勿体振る訳ではないが、これは発行期を定めない、本当のきまぐれ仕事であるが十二冊を限って出版したい。それが一年で済むか三年で完結するか、将又十年もかかるかこれは誰にもワカラン事である。 和漢楽同人 浜島静波 岡本天仁 大林豊好 加藤万年 鈴木登三(一部を現代仮名遣いにあらためた。)
この名簿は継続的に発行することが検討されていたようで、復刻されたもの以外の名簿も出版された可能性があるようだが、どこかに所蔵されていないだろうか?
次にこの名簿に蒐集家たちがどのように紹介されているかを福田江月という人物を例にして以下に載せておきたい。福田は別の記事で紹介した『全国全国蒐集家名簿』(洛葉会、昭和2年)を編集した人物である。
大阪 福田江月氏 一、足袋レツテル「約七千種」とお多福に関する器物及書類、靴下類、郵券 二、大正三年頃から初めました 三、蒐集の動機に遡ると蒐集仲間によくある話で至ってツミがありません、大阪松坂町の足袋屋へ買物に行った時、そこの主人が変わった足袋のレツテルを一枚の古新聞に貼つけているのを見て「これは面白い」と急に思い立ったのです(一部を現代仮名遣いにあらためた)
上記の一が蒐集分野、二が蒐集をはじめた時期、三が蒐集を始めた動機になる。上記の『全国全国蒐集家名簿』を紹介した記事で福田は足袋の蒐集家であったと述べたが、厳密に言うと足袋のレッテルの蒐集家であったことが分かる。
ところで、『和漢楽』を復刻した箸袋趣味の会は現在も継続しており、50年以上も歴史のある趣味団体である。参考までにWebページのリンクを以下に紹介しておきたい。