雑誌『土の香』翻刻版への補足―その人物、本当に詳細不明?
以下の記事で加賀紫水が編集していた雑誌『土の香』が翻刻、復刻が進められていることを紹介した。この翻刻版を購入したので、以下に写真を掲載したい。
この本には、第9巻第1冊から第6冊(通巻48~53編)が収録されているが、解説の一部として第9巻の執筆者の紹介があるが、この中に生没年、その他不詳となっている人物も多数いる。以下にそれらの人物を記載してみたい。なお、かっこの中はその人物に関して、詳細不明ながらも記載されている情報である。
青島生
池ノ内好次郎
石黒魯平(標準語の父といわれる。著書『標準語』)
一半洞
今枝清胤(名古屋教育会所属、著書『名古屋ことば』)
太田清(名古屋郷土研究会常任理事)
大山英志(沖縄在住)
岡田稔
公僊
雲山萬里櫻
小林浅洲(八王子在住)
島畑隆治
鈴木規夫(著書『南知多方言』)
出口貞夫
出口米吉
二十一氏
前田一衛
松川弘太郎(著書『狂詠と江戸看板 江戸往来<第十号>』)
山本靖民(東京方言学会会員、著書『宮崎の夜神楽』、『島原半島方言集』など)
吉町義雄(著書『古典梵語 サンスクリット 大文法 インド・パーニニ文典全訳』、『九州のコトバ』、『北狄和語考』など)
與田左門(方言研究者)
しかしながら、ウェブで調べてみるとその中の何名かは詳細が分かった。例えば、出口米吉に関しては、私が以前以下の記事で紹介したように民俗学研究者・後藤捷一が作成した詳細な年譜が存在しており、ある程度の経歴が分かるようになっている。余談だが、出口米吉は土俗趣味社から「趣味叢書」として何冊か本を出版している。
石黒魯平に関しては、Wikipediaにも立項されている。『土の香』の復刻版が出版されたは2013年であるが、石黒が立項されたのは2018年であるようだ。執筆者の紹介の参考文献によると、Wikipediaも参考にしたようだが、当時は立項されていなかった。しかしながら、『読売新聞』のデータベースであるヨミダスで確認してみると、『読売新聞』1956年7月21日夕刊に石黒の訃報が掲載されている。この記事によると、石黒は駒沢大学、実践女子大学の教授で「言語学の権威で著書も多い」とされている。吉町義雄に関しては、『文学研究』第63号(九州大学文学部, 1966年)に「吉町義雄教授略歴・講義題目・論著目録」が掲載されているようなので、これを読めば吉町の詳細の経歴が分かるだろう。
以上に一部のように詳細が分かった、もしくは分かりそうな人物を何名か紹介した。次に、謎の人物を調べるのに役に立つ『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールドさん編集, 2019年)で上記に記載した人物を引いてみると、以下の人物が載っているのを確認できた。出身地、登場する元の名簿名なども記載しておきたい。
今枝清胤 愛知県 『特撰蒐書家名簿』(古典社, 1935年)
岡田稔 愛知県 『日本蒐書家名簿』(日本古書通信社, 1938年) 愛知県立第一師範学校勤務?
鈴木規夫 愛知県 『特撰蒐書家名簿』(古典社, 1935年)
これらの人物が『土の香』に投稿していた人物と同一人物かどうかは分からないが、愛知県内に在住していることからおそらく同一人物であろう。このように手がかりがないわけではないので、他の人物も調べればある程度分かるかもしれない。
話題は変わるが、『土の香』の復刻版にはこの雑誌を所蔵している図書館、研究機関の一覧が載っている。図書館、研究機関の所蔵はCiNii Booksで確認できるが、国会図書館、一宮市立図書館にも所蔵されていることは私は知らなかった。この一覧は(どれくらいいらっしゃるのかは分からないが)『土の香』に関心のある方には役に立つだろう。
最後になるが、『土の香』の復刻版は今回紹介した1冊のみしか出版されていない。拙noteでも何度か述べているが、この雑誌は当時非売品であり出版部数も少なかったため非常に貴重である。復刻版の出版が継続されることを切に望む。
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