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南方熊楠『十二支考』についてのメモー比較研究

 柳田国男は比較研究の重要性を強調して、自分の「郷土」を研究する際に自分の「郷土」と他の地域を比較することで、はじめて「郷土」のことが理解できると様々な文章で述べていることは知られている。板橋春夫『日本民俗学の萌芽と生成ー近世から明治まで』(七月社、2023年)では、南方熊楠の民俗学史における役割が検討されているが、この本によれば、柳田は上記のような比較研究の視点を南方から学んだという。南方が比較の必要性を述べている部分は『十二支考』の「馬に関する民俗と伝説」にも登場するので以下に引用してみたい。

英語で蜻蜓とんぼ竜蠅りょうばえ(ドラゴン・フライ)と呼び、地方によりこの虫馬をすと信じてホールス・スチンガール(馬を螫すもの)と唱う。(中略)さて竜蠅とは何の意味の名かしばしば学者連へ問い合せたが答えられず。(中略)熊楠惟うに、ルーマニア人も支那人と同じく蜻蜓の形を竜に似た者と見しより右様の咄(Kamikawa注:とんぼを「魔の馬」また「竜の馬」と呼んだ由来)も出来たので、林子平が日本橋下の水が英海峡の水と通うと言ったごとく、従来誰も解せなんだ蜻蜓の英国名の起源が東欧の俗譚を調べてはじめてわかり、支那の俚伝がその傍証に立つ、これだから一国一地方の事ばかり究むるだけではその一国一地方の事を明らめ得ぬ。

 ここで南方は英語でとんぼをドラゴンフライと呼ぶようになった理由を中国とルーマニアの伝説を紹介して導き出している。興味深いのは、「一国一地方の事ばかり究むるだけではその一国一地方の事を明らめ得ぬ」と比較研究の重要性が述べられている点である。南方と柳田では「比較」の意味や両者の学問の中での位置付けは異なっているが、南方に柳田は影響を受けたということは言えそうだ。

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