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郷土玩具雑誌『ふく笛』第8号(関門民芸会)について
最近、雑誌を調査もしくは購入した雑誌の紹介をまったくできていないことに気が付いた(注1)ので今回な年末に購入した『ふく笛』第8号を紹介していきたい。川口栄三『郷土玩具文献解題』(郷土玩具研究会、1966年)によれば、『ふく笛』は以下のように述べられている。
ふく笛 佐藤治・一二冊・昭和二五、一一-昭和二九、三・関門民芸会。先に、河村幸次郎氏によって出された”河豚笛”(昭和一〇、七)の再刊ともいうべく、下関の佐藤氏を中心とする同会機関誌。
『ふく笛』は関門民芸会の機関誌で佐藤治によって発行されていた。『河豚笛』は同書によれば、下関郷土玩具同好会で河村幸次郎を中心に発行されていた雑誌で1号で終わったという。『ふく笛』はこの雑誌を受け継ぐものであった。この雑誌の第8号の書誌情報を以下に掲載したい。なお、投稿者の後に在住地も記載した。
雑誌名:ふく笛 第八号 おどり特集
大きさ 約14cm×約19.9cm、洋装、活版印刷
印刷:昭和27年8月25日
発行:昭和27年8月31日
編集発行人:佐藤治
発行所:下関市西細江町六 佐藤治内 関門民芸会
印刷所:下関市長崎町二二八一 瞬報社写真印刷株式会社
頁数:38頁
表紙 ろうけつ染 平山敦
口絵 木版 馬関平家御興 清水完治
口絵 木版 柳川のきじ車 石井澄生
口絵 木版 筑前木屋瀨・宿場踊七手之図 岩尾四十三郎
孔版 『赤間関坊主落』唄本表紙 帯谷瑛之介
孔版 阿南のカルタ 帯谷瑛之介
フク 河内山賢祐 東京
オルゴール譚 河村幸次郎 東京
タタラ 吉村貞司 東京
最近の高松観光玩具 加藤増夫 高松市
玩界近況(六) 梅林新市 福岡市
法界寺の木食佛(上) 広瀨直彦 下関市
でこ便り 石井丑之助 東京
諸国のうちわ 郡憲輔 福岡市
口絵「馬関平家神輿」解説 凡
玩具天狗廻状 鈴木登輝夫 横須賀市
東京便り 大木澄爾 東京
赤間関硯覚書(石材) 堀尾卓司 下関市
油壷小談 美和彌之助 八幡市
丑のサバ追い 桝沖栄三 下関市
宿場踊 岩尾四十三郎 福岡県木屋瀬
長浜の盆踊 浦橋比智朗 小倉市
「みぞれき伝七」のこと 佐藤生
ハンヤ琉球 島田昇平 下関市
湯本の南條踊 徳見光三 下関市
「赤間関坊主落」解説 三味居主人 下関市
盆踊り雑記 帯谷瑛之介 下関市
安岡置座踊 吉村次郎 下関市
平家踊大阪興行始末記 佐藤治 下関市
安南のカルタ 日野巌 宇部市
おもちゃの旅(三) 梅田之 門司市
ドルを稼ぐ神奈川こけし
石鹸彫塑「髪を束ねる女」 比智朗誌
七夕まつり 大隈岩雄 小倉市
菓子風土記其ノ五 小次郎つばめ 林我 小倉市
爽竹挑書屋訪問記 富田佳子 小倉市
船木櫛 前田喜代人 下関市
萩みかんの由来
寄鯨から境界の定った話 山形吉蔵 下関市
小倉短信
猿のぼり 奥野三男 下関市
鳩替行事盛況裡に終了
あの本この本
長崎の凧 村上秀代 小倉市
田坂柏雲氏遺族の動静
小郡通信
動静
馬関の俚謡・俗謡(上) O・S生
あとがき 編集子
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部数は奥付に180部と記載されている。今回の記事のタイトルでは郷土玩具誌と記載したが、誌面は郷土玩具だけでなく民俗の報告や民芸関連の記事もあるので「趣味誌」とした方がよいであろう。この号は「おどり特集」が組まれ民俗芸能についての報告が多いが、この号以外の誌面も同じようなものなのだろうか。
記事以外で目をひかれたのは以下の写真のような貼り込みが多い点である。この雑誌が発行されていた昭和27年(1952年)は戦争が終わって10年も経過していないが、貼り込みも戦前の趣味誌のように戻ってきているような印象を受けた。上記の写真のように表紙も染め上げで仕上げていると凝っている。
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投稿者では下関の人びとだけでなく全国から投稿が集まっているが、福岡県からの投稿が多い点が興味深い。距離的に近かったというのも理由だろうが、小倉市の動向は「小倉通信」として紹介されているのでこの地域に会員が多かったと推測される。重信幸彦「「野」の学のかたち―昭和初期・小倉郷土会の実践から」(小池淳一編『民俗学的想像力』せりか書房、2009年)によれば、北九州地域には戦前から小倉郷土会など多くの文化・研究団体があって人びとはこれらの集まりに分野を横断して参加していたというので、関門民芸会も戦後に彼らが集まった団体の1つであったのだろうか。余談になるが、重信によれば小倉郷土会には一時期小説家・松本清張が出入りしていたという。『ふく笛』の「小倉短信」には「松本張」という名前が見られるが、この人物は松本清張であろうか。
また、民俗学研究者・日野巌が投稿している点も興味深い。以下の記事で紹介したWATANABE様の「日野巌の年譜―民俗研究を中心に―」(『みやざき民俗』第73号(宮崎民俗学会、2023年3月))に収録されている「日野巌民俗関連文献」には『ふく笛』は記載されていない。私も日野が戦後になっても玩具関連の雑誌に投稿していることは知らなかったので驚かされた。戦後に日野が投稿した趣味関連の雑誌はまだまだありそうである。
(注1)最後の雑誌紹介は約半年前の以下の記事であるようだ。
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