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民俗学研究者・齋藤吉彦の追悼記念に出版された『那妣久祁牟里』

 先日以下の記事で紹介した雑誌『俚俗と民譚』第1巻 第1号(単美社, 1932年)に齋藤吉彦という民俗学研究者の追悼1周年を記念して出版された『那妣久祁牟里』(なびくけむり)の広告が出ているのを見つけた。この本が気になったので調べてみると、「日本の古本屋」に出品されているのを発見したので購入してみた。

貴重な本だと思われるので書影と奥付の写真も以下に紹介しておきたい。

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『俚俗と民譚』と同じく出版は単美社、印刷は福原清八が担当している。この本は齋藤の執筆した原稿がそのまま掲載された文章と関係者の追悼文が中心となっているが、齋藤の略歴と執筆目録も載せられている。この本の情報を参考にして齋藤の略歴を以下に記載したい。

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1904年2月10日 青森県弘前市元寺町三十五番地士族齋藤吉六氏長男として生まれる。
1921年 青森県立弘前中学校を卒業
慶応義塾大学経済学部予科1年に入学
1924年 慶応義塾大学経済学部予科を卒業し、文学部本科1年仏文科に転科入学
1927年 仏文科を卒業、成績優秀者としてフランス政府より表彰される。
     慶應義塾大学文学部助手、9月から大学予科講師兼任
1930年12月15日 故郷の生家で死去
研究科目は主として言語学及び民俗学

上記の略歴、執筆目録、寄せられた追悼文から齋藤は言語学、民俗学、文学を研究していたが、早逝したことが分かる。特にフランス文学研究者・高橋廣江が寄せた「齋藤君に捧げる」という文章では、齋藤は柳田国男と交流があり、この本を柳田が出版しようとしていたと書かれている。以下に該当する箇所を引用してみたい。

(前略)「遺稿出版」の話は、再三出たのであるが、何時も費用の点などで行悩み、その中に時機も過ぎて、立消えにならうとしていた。ところが、柳田先生に於て遺稿出版の御計画中であるといふことを、松本先生から承つたので、急に友人共相謀つて、多少とも援助させていただくことの御了承を柳田先生に願ひ(後略)(一部を現代仮名遣いにあらためた。)

文中の「松本」は民俗学研究者・松本信広のことで、松本を経由して柳田が齋藤の遺稿出版をしようとしていることを高橋が知ったことが分かる。『柳田國男全集別巻1』(筑摩書房, 2019年)を確認すると、柳田は1924年4月から慶應義塾大学文学部の講師となり週1回民間伝承の講義を行っているので、柳田の講義を通じて民俗学に関心を持ったのだろう。詩人・西脇順三郎の跋には、「柳田國男先生の御盡力にて同君が書いた一つのメランジュが世に出たことは有難いことである」と述べられており、柳田は斎藤に大きな期待を寄せていたと思われる。

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