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震災でコレクションを失ったけど諦めない郷土玩具蒐集家・武藤喜邦
以前以下の記事で趣味誌『加良久利』を紹介した際に大日本趣味同好会の同人のひとりに武藤喜邦がいる。記事の中で武藤の蒐集分野に関して、蒐集家名簿『和漢楽(わからん)』に載っていると述べたが、その部分を再掲しておく。
東京 武藤喜邦氏
一、土俗と風俗の研究及其資料蒐集
おかめ、猪、福財布とお守小判、箸と杓子、諸国おみやげかんざし、変形お守と御影、名物票、変態風俗資料等々
二、明治三十二三年頃、煙草に入れてあった「写真の絵」より初まり、万国切手、絵葉書が初めて発行されると共に絵葉書―社寺名物印影はがき―記念はがき―土俗玩具といふ順序
但し震災前の物は二十数年の蒐集物全部焼失
三、動機といって別にない。子供の時から自分に自然に芽生えて来たのです。
『和漢楽』では、武藤の蒐集遍歴以外は述べられていなかったが、先日より国会図書館デジコレの個人配信の対象となった『郷土秘玩』第1巻第2号(郷土秘玩社、1932年5月)の「愛玩家の蒐集内容」という欄に武藤のより詳しい経歴が載っているのを見つけたので、以下に引用してみたい。
東京 武藤喜邦
三十年程前西洋煙草の中に入ってる絵を集めたのが私の蒐集といふ事の初まりであった。
それから古郵券の蒐集をやってる内に絵葉書といふ物が発行されるやうになってまた是れを集め初めた普通の絵葉書に倦いてしまった次が社寺名物等の印影葉書を集め出した。是れに関連して名物の商標を集めるやうになり其れが次第に木版絵葉書といふうやに次から次と何でも集めねば気がすまなかった郷土玩具を集め初めたのは大正四五年頃からだったと思ふ。然し二十年間の蒐集物は大正十二年の大震災に全部を鳥有に帰してしまった。震災後其年末から再び蒐集にかかり震災記念物の蒐集を初まりに郷土玩具、箸、しゃくし、福財布、お守小判、変形お守、其他或る記念を意味する物等々何でもあれ集めている。殊におかめと猪に関する物を集めているが、猪は比較的に少ないのであまり集まらない。
本業は長唄や清元等の稽古本の出版元。
生れは明治二十年七月二十七日亥の五黄。
(一部を現代仮名遣いにあらため、読みやすくするために必要に応じて句読点を補った。)
武藤は1887年7月27日生まれであり、長唄や清元の出版をしていた人物であったことが分かった。武藤が編集した『長唄稽古本表紙絵集』(1932年)は『郷土秘玩』と同じくデジコレで自宅で読める。この本は過去の長唄の稽古本の表紙を集めて本である。
興味深いのは、武藤は関東大震災で今まで蒐集したコレクションを失ってしまったにもかかわらず、蒐集を再開したことである。特にコレクション焼失の原因となった震災の記念物を蒐集を行っているのは驚きだ。私の感覚では自分のコレクションがなくなってしまったらショックで止めそうであるが、武藤の七転び八起きの蒐集精神は見習いたいところだ。
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