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「トリック ラストステージ」心を開け渡したままで

オモコロチャンネルのおすすめ邦画を紹介する回で紹介されていたので見たくなり、テレビシリーズ1~3と映画3作を見返してから見ました。時間かかった。
「ラストステージ」以外はところどころうっすら見たことがあるような記憶があったのですが、だいぶ前のことだったので見返して良かったです。新鮮におもしろかった。たぶん前に見たのが子どもの頃だったので、気づかずスルーしていた小ネタやパロディも多かったんだと思います。


以下、ネタバレを含みます。


貧乏暮らしのマジシャン山田奈緒子(仲間由紀恵)が、ひょんなことから物理学者の上田次郎(阿部寛)に言いくるめられて未開の村へインチキ霊能力者のトリックを暴きに行くというのが定番のストーリー。シリーズ完結編の今回、二人が行くことになるのは海外の村です。

赤道スンガイ共和国という架空の国ですが、着いてみるとテレビシリーズ第1話の母の泉の教祖そっくりな肖像画がたくさん。後から調べて知ったのですが、死んでしまった母の泉の教祖は実は影武者で、本物は海外で国を作っていたという設定。教祖の女優さんが菅井きんなので、その名前をもじっているんですね。

映画はいつもゲストの俳優が豪華で、「この頃の○○、若いな~」などと思っていたのですが、今回のゲストの東山紀之についてはひたすら「スタイルが良すぎる」と思いながら見ていました。
テレビシリーズと映画過去作を見返してゲストの俳優の若さに驚く一方で、仲間由紀恵と阿部寛の変わらなさにびっくりしますね。さすがによく見たら変わっているのかもしれませんが、全然衰えていないというか、時代が進んでいないのではないかと思ってしまいます。

映画が公開されたのは2014年。そろそろ未開の村で起こる超常現象という定番の展開や、山田の貧乳いじりや矢部刑事のかつらネタ、オカマいじりなど、時代的に続けていくのは難しかったのかもしれません。終わってしまうのは寂しいですが、きれいに終わって良かったと思います。

シリーズを通して「継ぐこと」がテーマなのかなと思いました。山田は父から手品の才能と霊能力を否定するスタンスを継いだと思っているが、同時にシャーマンである母の血も継いでいて、自分が否定してきた超常の力を持っているのではないかと常に葛藤しています。山田が霊能力なんか存在しないと否定したい気持ちは、それだけ自分が本物の霊能力者なのではないかという恐れの強さなのだと思います。

アイデンティティとも言える信条に従って、これまで山田は上田と協力して霊能力者のトリックを暴いてきましたが、最終作である今作の終盤、山田の心境に変化が見えます。
村で祭り上げられていた呪術師の本当の役割に気づき、「全部私たちの責任なんです」「私たちがここに来なければ」と言う山田。呪術師の本当の役割は最小限の犠牲で村を救うためでした。おそらくこれまで山田たちが暴いてきた霊能力者たちも、誰かを救っていたのかもしれません。壊してしまった平穏が確かにあったのだと山田は責任を自覚します。村の呪術師のトリックがわかったにもかかわらず、「まあいいか」と反応が薄いのも、もはやあまり暴くことに意義が見えなかったからだと思います。

霊能力は存在しないかもしれないけれど、霊能力によって救われる人は存在する。

霊能力のあるなしはもう問題ではなく、だから山田は命がけで呪術師から引き継いだ役割をまっとうするのです。霊能力者の血を引いているからではなく、村の平和を壊してしまった責任があるから。シリーズを通して描かれていた山田の葛藤にも一応の決着がついたようにも見えました。

映画「ラストステージ」で特に良かったのはやっぱりエンドロール後のラストシーンだと思います。
最後、上田のもとへ現れた山田はテレビシリーズ第1話とまったく同じ手品を再演します。たった2人しかいない、大学の散らかった研究室で秘めやかに行われるラストステージ。山田は記憶を失っていて、14年もの積み重ねと万感の思いを持っているのは上田(と視聴者)だけ。14年前とそっくりな冷静な表情とトーンで手品を進めていく山田に対して、上田(と視聴者)は今にも泣いてしまいそうになります。

上田にとって、山田が無事に生きているとわかっただけでもう十分なのなら、今後二人が会うことはなく、正真正銘これが山田の手品を見るラストステージなのかもしれません。
あるいは、小細工(トリック)なしの二人の関係がここから始まるのかもしれません。
だから「トリック」シリーズはこれでおしまい。とても素敵なラストシーンでした。

ここ最近ずっと寝る前にちょっとずつ「トリック」を見返す生活をしていて、がめついのに可愛い山田や小心者で見栄っ張りのくせに妙にかっこいい上田のことが大好きになってしまい、ロスがすごいです。もう1周しようかな。

小ネタや悪ふざけは今回もたくさんありましたが、わたしは空港に貼ってあるリアルくまモンのポスターがツボでした。ぜひ探してみてください。


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