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『もののけ姫』から読み解く現代社会:歴史・環境・未来への視点

はじめに:なぜ今、もののけ姫に注目するのか

1997年の公開から25年以上が経った『もののけ姫』。環境問題や持続可能な社会づくりが世界的な話題となり、SNSでは環境保護に関する投稿が日々話題になっている今、この作品の持つ意味が改めて注目を集めています。

作品の中心テーマである「開発と環境保護の対立」は、気候変動対策や持続可能な開発が求められる現代において、より身近な問題として感じられるようになってきました。この記事では、現代の視点から『もののけ姫』を読み解き、作品が私たちに投げかけるメッセージを探っていきます。

1. 時代設定の意味を探る

1.1 室町時代と現代の意外な共通点

物語の舞台となる室町時代後期(1336年~1573年)は、実は現代と似た特徴を持つ時代でした。中国との貿易が活発になり、新しい技術が次々と生まれ、社会の仕組みが大きく変わっていった時期です。今でいえば、スマートフォンやAIが私たちの生活を変えているような、大きな変革の時代だったのです。

1.2 古代の知恵と現代の課題

作品には、はるか昔の縄文時代の要素も含まれています。シシ神を中心とする自然との共生の考え方や、アシタカの村に見られる伝統的な暮らし方は、実は現代の環境保護活動やSDGs(持続可能な開発目標)が目指している方向と重なる部分が多いのです。

2. 物語の舞台設定を読み解く

2.1 日本の東と西をつなぐ物語

作品の舞台設定は、実在の場所からヒントを得ています。アシタカの故郷は、青森県の白神山地の豊かな自然と、岩手県平泉の建物のイメージを組み合わせています。一方、タタラ場のある土地は、島根県の製鉄所の歴史と、鹿児島県の屋久島の深い森のイメージを重ねて描かれています。

2.2 都市と地方の関係を考える

東の地域と西の地域の違いは、今日の都市と地方の関係を考えさせます。経済発展を目指すタタラ場と、伝統的な生活を守ろうとするアシタカの村の対比は、現代の地域間格差や、開発と環境保護の難しさを表現しているのです。

3. 環境問題を先取りした物語

3.1 シシ神が表す自然の二つの顔

シシ神の描き方は、現代のエネルギー問題を考えるヒントを与えてくれます。昼の姿である鹿は、太陽光や風力のような環境にやさしいエネルギーを思わせます。一方、夜の巨大な姿は、原子力のような強力だけれど扱いが難しいエネルギーを連想させます。この二つの姿は、現代の私たちがエネルギー問題で直面している課題を表現しているのです。

3.2 タタラ場に見る現代社会の課題

タタラ場という共同体は、現代社会の縮図として見ることができます。女性リーダーのエボシ御前が率いるこの場所では、性別や障害の有無に関係なく、誰もが活躍できる社会が実現しています。ただし同時に、森林破壊や地域社会との対立など、今日の企業や組織が抱える問題も描かれています。

4. 現代社会への示唆

4.1 環境保護と技術発展の両立

作品は環境保護と技術発展を単純な対立として描くのではなく、その両立の可能性を示唆しています。これは、環境に配慮した技術開発や、資源を無駄なく循環させる経済の仕組みづくりを目指す現代の取り組みにつながる考え方です。

4.2 これからの社会づくりのヒント


タタラ場での取り組みは、多様な人々を受け入れ、新しい技術と伝統的な知恵を組み合わせ、人々のつながりを大切にする社会づくりの先駆けとして読み取ることができます。それは、今日の社会的企業やベンチャー企業の活動にも通じる考え方です。

まとめ:未来への希望

『もののけ姫』は、25年以上前の作品でありながら、現代の環境問題や持続可能な社会づくりの課題を先取りする驚くべき先見性を持っていました。環境保護、誰もが活躍できる社会づくり、持続可能な発展など、今私たちが直面している課題について、深いヒントを与えてくれています。

物語が教えてくれるように、対立する考え方の間に簡単な答えはないかもしれません。しかし、サンとアシタカが示したように、お互いの立場を理解し合い、対話を重ねることで、新しい未来を切り開くことができるはずです。彼らの姿は、現代を生きる私たちへの力強いメッセージとなっているのです。

参考文献


- 藤田正勝 (2016)『宮崎駿論―アニメーションを超えて』岩波書店.
- 久米依子・大塚英志 (2019)『ジブリの森へ―宮崎駿・高畑勲と『もののけ姫』まで』新曜社.
- 黒沢清・四方田犬彦・吉見俊哉・李鳳宇 (2004)『「もののけ姫」がわかる』徳間書店.
- 叶精二 (2006)『宮崎駿全書』フィルムアート社.
- 宮崎駿 (2002)『出発点〈1979→1996〉』徳間書店.
- 大塚英志 (2019)『宮崎駿の時代 1941-2008』岩波書店.
- 鈴木敏夫 (2014)『ジブリの哲学―変わるものと変わらないもの』岩波書店.
- 高畑勲 (2014)『「ジブリ」という魔法』文藝春秋.

※この記事は上記の本を参考に書かれていますが、解釈や考え方には筆者独自の意見も含まれています。

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