店を増やすだと!?
「俺がこの前ボイコットすればいいって言ってた子いるだろ?」
「めっちゃ働いてるんでしたっけ?」
「朝から晩まで働いてて、熱がでても休めないってさ」
「やば」
「その子がまた来てくれたんだけど、なんとオーナーは店を増やすそうだ」
「人が足りてないのに?」
「オーナー目線だと人は足りてるらしい」
「えっ!?」
「新店舗の為の求人をかけているそうだ」
「やば」
「俺もびっくりよ。まさかそんな事が起きるなんて」
「まあ退職代行の記事とか読むとそんな企業も多いですもんね」
「ほんとさ、真面目に働く人から搾取しすぎ」
「その子には何て声をかけたんすか?」
「お店のオープンが決まったタイミングで辞めなって言っといた」
「一番困るタイミング」
「現場を軽視する人にはさ、現場から人がいなくなったらどうなるかを身をもって分からすしかないと思う」
「いくらでも代わりはいると思ってるんですかね」
「もしそう思ってるとしたらやばいけどな」
「飲食の現場は誰でもやれるって思われがちっすもんね」
「誰でもやれるんだけど、真面目に続けられる人は少ないんだよ」
「給料が安いからですかね?」
「それもあるかもな。安い給料だからこれぐらいでいいかって思う人もいるかもしれない」
「他にもあります?」
「簡単で同じ作業の繰り返しってさ、飽きるじゃん?」
「それはそうですね」
「すると大抵の人は手を抜き出したり、ばれない範囲で誤魔化そうとする」
「さもありなん」
「だから真面目に同じ事を続けられる人は貴重なの」
「なるほど」
「これは続けさせてみないと分からない事だから、続けてくれてる子は大切にしないといけない」
「そりゃそうだ」
「なのに現場の不満を聞こうともせず、新規出店に奔走する人がいる」
「お金に目が眩んでるんですかね」
「何でなんだろうな。そのお金があるなら残業代ぐらい払ってあげてよと思う」
「当たり前の事なんですけどね」
「俺もその辺を無視出来ればってたまに思うよ」
「そしたら店を増やしてました?」
「ガンガン増やしてボロ儲けしてたかもしれない」
「中途半端に優しいからな」
「まあそんな人はいずれ痛い目を見るから、今のままでいいんだけど」
「ボロ儲けよりも精神衛生っすよ」
「健康は金では買えないからな」
「でもそんな人はストレスも感じなさそうっすね」
「いや、金が稼げなくなったらストレスを感じるはずだから、現場から人がいなくなるってのが結局一番のダメージだと思う」
「早く辞めてもらいましょう」
「次はうちでグレーぐらいの条件で働いてもらうか。あの環境からのグレー程度だったら最高の環境に感じるだろ」
「最低っすね」
「冗談やん」
「中途半端な優しさの真骨頂を見ました」