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ルール

「昨日、税理士さんと話してたらな、渋谷区は3年以内に廃業する飲食店が多すぎるみたいで」

「まあよく聞きますよね。3年で半分は消えると」

「それを分かってるからなのか、確定申告をしない所が多いらしい」

「どうせ潰れるからって判断か」

「最悪の判断だけどな」

「まあでも合理的っちゃ合理的っすね」

「いや、この話には続きがあってだな。そういったお店には積極的に税務調査をかけているそうだ」

「泣き面に蜂じゃないっすか」

「因果応報だろ」

「お店が潰れてお金が無いかもしれないのに、さらに税金の追い打ちだなんて」

「いや、税金を納めるって当たり前の事だからな」

「でも」

「俺は確定申告をしないとか、労働基準法を守らないとか許せないの」

「ルールに厳しいんすね」

「ルールがあるから公平な競争が出来るのに、それを破られると守ってる人が不利になるだろ」

「確かに」

「うちの近所の飲食店にな、めちゃくちゃな働き方をさせられている子がいてさ」

「どの口が言ってんすか」

「俺はいいんだよ。自分で決めたから」

「雇われだったらブラックというか漆黒企業ですもんね」

「企業といか収容所だろうな」

「で、その子の働いてる所がひどいと」

「休日日数も拘束時間も給料も全てがアウトでさ」

「それはひどい」

「俺は辞めるかボイコットしなさいと言っている」

「そう簡単に出来なさそうですけど」

「働いちゃうから待遇は改善されないし、オーナーは問題があるとも思わないんだよ」

「人手不足になって困ればいいと」

「いいや、潰れてほしい」

「そこまで!?」

「さっきも書いたけどさ、真面目にやってる所からしたら迷惑なんだよ」

「そんなに影響あります?」

「それは分からないけど、本来価格転嫁されないといけない人件費が乗ってない訳じゃん?」

「はい」

「それで価格を安く抑えてたり、家賃の高い所を借りていたとしたら不公平だろ」

「まあそうですけど」

「だから潰れればいいと思ってるの」

「辛辣だ」

「労基署に入られて、従業員にも訴訟を起こされればいいとすら思ってる」

「恨みでもあるんすか?」

「無い!でも、こんな話が飲食には多すぎるから腹が立っている」

「業界の代表みたいだ」

「こんな小さなコーヒー屋でもな、ルールを守ってるんだよ」

「当たり前ですけど」

「その当たり前をやれって話」

「分からなくもないですね」

「まともな条件で人を雇えないなら雇うな!」

「それはそう」

「自分で身を粉にして働け!」

「メーデーで拡声器を持つタイプ」

「雇われてる人もおかしな所で働くな!」

「愛の鞭」

「当たり前の事を当たり前にやってる所だけが残れば、オーバーストアが解消される気もするし」

「そこまでいきますかね?」

「多分いく。それぐらい無茶苦茶な所が多い」

「そんな世界なのか」

「ワンオペのお店も増えると思うから、それも楽しみではある」

「人を雇うのが大変だから」

「そう。すると俺の年中無休営業の凄さが伝わると思う」

「頭おかしいですもんね」

「そうなるともう少し評価が上がるかもしれないなと」

「いや、アホな奴がいるってだけで評価は変わらないっすよ」

「凄さが伝わらないかな?」

「凄いとは思いますけど評価はしないですかね」

「こんなに頑張ってるのに?」

「頑張る方向性を間違えてると思われるだけです」

「この働き方で10年目を迎えてるというのに」

「気づくのが遅かったっすね」

「みんな訴訟されちまえ」

「八つ当たりしだした」


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