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常連とは

「常連の線引きはどこから?と聞かれてさ」

「何回って答えました?」

「やっぱそうなるよな」

「何か変な事言いました?」

「頻度じゃないんだよ」

「いや、頻度でしょ」

「いいや、頻度じゃない」

「じゃあ何すか」

「また来てほしいかどうか」

「それを常連とは呼ばないでしょ」

「じゃあ、一年に一回しか来れない人は常連とは呼ばない?」

「もちろん」

「俺はその人が一年に一回来てくれるのを楽しみにしてるの。3年ぐらい続いた時に、その人を常連認定しました」

「確かに定義は難しいか」

「殆どの人は頻度って答えると思うし、教科書的にはそれが正解なんだけどさ、小さなお店の店主は絶対に頻度で認定してないと思う」

「でも、頻度も大切ですよね?」

「そうでもないかな。沢山来てくれてたとしても、また来てほしいとは思わない事もあるし」

「恐ろしい事を言ってますよ」

「お店の事を好きかどうかが大切でさ」

「好きだから来てくれてるんじゃないっすか?」

「自分を満たす為だけに来てる人もいる」

「でも、お店ってそんなもんですよね?」

「そう。だから別に何とも思わないんだけど、どうしてもまた来てほしいとも思わないかな」

「そこに齟齬が起きてそうですね」

「そうね。お客さん側は沢山来てるから常連だろって顔をするけど、お店からするとそんなでもないって事はある」

「これを読んでひやっとしてる人もいますよ」

「大丈夫。こんなくだらない文章を読んでるくれる人は間違いなく良いお客さんだから」

「そんな人は自分を満たす為だけに来ない?」

「お店の事も考えてくれたりする」

「例えば?」

「後ろに人が並んだらさっと帰るとか、ありがとうございますって言ってくれるとか」

「なるほど」

「他のお客さんの迷惑にならないようにって思うのはさ、お店に迷惑だと思うからだと思うんだよ。それって好きじゃないと出来なくない?」

「どうでもいい店だったら何を思われてもいいですからね」

「また来たいって思うからお店にも気を遣えると思うの。そんなのを見ると俺もまた来てほしいと思う」

「良いお客さんですもんね」

「また来てほしいって思うとさ、俺も頑張るし。それで何回か来てくれると常連さん認定されるという流れ。なんか認定って偉そうだけどな」

「なんとなく分かりました。頻度ではなく愛情だと」

「お店の事を好きでいてくれて、俺もまた来てほしいって思った瞬間、そこに愛が芽生えるのよ」

「あ、はい」

「まあ頻度じゃないって事だけでも覚えておいてもらえればと」

「回数行ってるからって勘違いすんじゃねえぞと」

「陰で変な渾名をつけられてるかもしれないからな」

「こっわ」

「うちの店の話じゃないからね。前の店の話」

「例えば?」

「チャイの奴」

「なんか雑っすね」

「毎日来てて嫌われてたからな」

「原因は?」

「レジが女の子じゃないと並ばない」

「そりゃ奴って言われるか」

「気をつけるように」

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