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【あし #21 / 横断 #17】障害学生による理系分野への選択拡大を


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並木 重宏さん


 「どんな障害や属性があっても、その人の選択に影響を与えない共生社会。障害のある人でも理系分野がキャリアの選択肢として選べるように」
 それが、かつてご自身も研究者で、その後車椅子ユーザーになった並木さんの目指す社会だ。



 未来の技術やイノベーションを生み出す人材の育成として、近年『STEM(Science科学、Technology技術、Engineering工学、Mathmatics数学)』教育が有名になったが、米国のデータによれば、STEM分野における障害学生の割合は大学の学部で10パーセント。それが大学院では5パーセント、博士課程では1パーセントに下がる。”比率”さえ維持されず、その数は一層少なくなるばかりだ。

 いわゆる理系の学習・研究環境を想像すれば、その背景の一端が理解できる。例えば、狭い実験室で、高い棚から高価な実験器具を取り出し、それを実験台に持ち運び、実験後は薬品を流したりもする。


 かつてそんな実験環境で研究に励んでいた並木さんが、数か月頭痛が続き、病院に行っても原因がわからず、心理的なものではないかと言われる中で、ある日、「言葉にならない違和感」を感じた。

 そこから、右半身に力が入らなくなり、右腕を上げようとしてもまっすぐ前に保持できない。日付を聞かれても年月日をすべて答えられない。麻痺した手が勝手に動き、自分の顔にパンチしてきた。そのまま意識障害に陥った。

 病院でのステロイドの大量注射で持ち直し、ひとまず後遺症は残らなかったものの、1-2年経った頃から、ランニングすればつま先を地面にこすり、テニスのサーブでジャンプすれば着地がうまくできなくなった。この間、米国の研究所にも勤務する中で、徐々に歩けなくなっていった。 

 日米で色々な病院にかかっても、似ている病気はあってもマーカーはすべて陰性で、原因や病名もわからない。最終的に日本のNCNP(国立精神・神経医療研究センター)から受けた”仮診断”は、指定難病の『多発性硬化症/視神経脊髄炎』。自己の抗体が大脳や脊髄を障害し、手足の筋力低下や体のしびれが生じる疾患である。


 診断後に治療を受けるも、全ての進行が止まるわけではない。車椅子ユーザーになり、先が見えない中でどう働いていこうか悩む並木さんに訪れたのは、「理系分野を諦めない」チャンスだった。

 東京大学先端科学技術研究センターによる誰一人取り残さないインクルーシブなSTEM教育参加を支援するプロジェクト『インクルーシブ・アカデミア・プロジェクト』との出会い。その一環として並木さんは、実験室という観点でバリアフリーを進める『インクルーシブ・デザイン・ラボラトリー』を立ち上げた。



 並木さんは現在、主に3つのことに取り組んでいる。

 一つ目は、環境整備。例えば、並木さんの実験室は広く、車椅子でも使える実験台などが整備され、流し台は昇降する。

 二つ目は、合理的配慮。障害学生が教室で講義を受講する際の支援は少しずつ進んできた一方で、「実験環境ではまだまだ」だ。実験動画を撮影して作業ごとに切り出し、それぞれができるかどうかを確認し、できないものには具体的な合理的配慮を検討する。

 三つめは、入学前段階から、障害学生を実験室に招いて、体験してもらうことだ。米国の研究では、同じマイノリティ属性を集めて同様の実験体験をすることで、その後にSTEM分野を進路選択する比率が高まったエビデンスもある。



 もちろん、東京大学の一研究室だけに環境が整備され、合理的な配慮がなされればいいわけではない。

 米国の場合は、『障害をもつアメリカ人法(ADA)』に「障害者は、障害のない人と同じように施設・設備にアクセスできなければならない」旨の記載があるとともに、ADAに準拠した実験室のレイアウト提案や設備の一定割合を利用者が利用できるものにする旨が記載されたガイドラインまでが存在する。

 並木さんは、現在日本にはないそういった基準作りに、自身の取り組みがつながっていくことを願っている。ただ、国が支援する研究開発テーマに「実験室環境の整備」が位置づけられているわけでもなく、資金面では大きな課題があるのが現状だ。

 また、合理的配慮も、他の大学を見れば、常に理系の障害学生が在籍するわけではない。結果的に、入学者がいれば配慮に力が入り、いなければそのノウハウが引き継がれない。そのため、そうしたノウハウが一大学で閉じて消失してしまわないような「(高等教育機関同士で)協力できるネットワーク」も構築したいと並木さんは考えている。

 加えて、知的障害のある方は、そもそもほとんど大学に通っていないという課題もある。代筆や移動などの配慮はできても、自分の研究の内容を考えたりすることまでは配慮できないからだ。


 冒頭で申し上げたように、どんな障害や属性があっても、どうしたら理系分野を諦めずにキャリアを築けるか。かつてそれが分断されそうになった並木さんだからこそ、身をもって、後進に道を切り拓ける分野だろう。

 でも、それは一大学一研究者だけで実現できるものではない。それに続き、それを支える人材や制度が生まれるかどうか。共生社会、そこから生まれる未来の技術やイノベーションへの道をつくりあげるのは、後から歩む者にかかっていることを忘れてはいけない。






ここまで読んでくださった皆さまに‥


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