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土屋うさぎ『謎の香りはパン屋から』を読んで
噺家の中で俺以上にパンが好きなやついんの? って話ではない。
漫才過剰考察を読み終えて、次もお笑いコンビである銀シャリ橋本さんの【細かいところが気になりすぎて】を買いに本屋さんへ。
しかしながらその人気と、そもそもの発行部数の少なさで品切れ。
「読む物ないじゃん」と店内をグルグルしていたら美味しそうな本を見つけた。
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【謎の香りはパン屋から】。
『このミステリーがすごい!』の大賞受賞作という帯と、パンのようなあったかそうな表紙につられてパラパラとめくってみる。
たまごサンドを作るとのことで、食パンにバターを薄く伸ばしていくのだけれど、
『ヘラでなぞった部分がバターを吸い込み、陽が差し込んだように輝いた』
という表現に「美味しそっ」っと心を──いや胃袋をつかまれて購入した。
この他にも度々出てくるパンのまぁ美味しそうなこと。
パンを食べながら読みたくなって、チーズのパン食べながら読んだら油で本が汚れたわ。
『このミステリーがすごい!』の大賞というくらいだから、読む前はなんとなく、パン職人の女の子がパンの知識でもって事件を解決するもんだと思っていた。
「凶器は硬いフランスパン。撲殺した後は焼いて食べて証拠隠滅したんですよ!」
みたいな。
もちろんそんな事はなくて、実際は解き明かさなくてもいいような日常の謎を、漫画家志望だから観察力が優れているというパン屋のバイトの女の子が解き明かしていくというお話。
日常の謎、寄席でいうと例えば、
『あれ? あの師匠今日は羽織着てないのなんでだろう?』とか、
『あれ? プログラムと出順が違うのなんでだろう?』とか、
『あれ? 今日は「いっちょうけんめい」って言わなかった。どうして?』というような。
ともすれば、何読まされてんだ? となりそうだけれども、小さな謎の裏に意外な事実に隠れていたりする。
加えてパン屋という特殊な環境、出てくるパンのシズル感で、抜群に読みやすくて最後まで飽きさせない。
作者の土屋うさぎ氏が漫画家ということもあってか、登場人物のキャラクター性が分かりやすく明快なのが良い。
というか、やってきた事の『らしさ』が出ているというところが良い。
ああ、漫画家だからか、と。
『経験が活きる』というやつ。
聞けば、パン屋でのアルバイト経験もあるとのこと。
じゃあもうこの人にしか書けないよな。
そこは噺家として、自分も目指したい域。
元お笑い芸人で旅が好きなわけだから、本当は抜け雀とかやらなきゃだろう。
個人的に好きなのは、『主人公の、受賞を逃した漫画の設定』大喜利。
なんじゃそら、と思うけど全部読んでみたすぎる。
どうにか描いてもらえないだろうか。