📖トマス・ピンチョン『重力の虹』を読む🌈
※※ヘッド画像は takahashi08921 さんより
ついにトマス・ピンチョン『重力の虹』を読んでしまった。読んだといっても完全に理解できたわけではない。むしろ、読んだ割には、全然理解できていない。それほど重厚で難解な作品であった。
ただ、勘違いして欲しくないのは「難解だからといって退屈ではない」ということである。むしろ、その 分からないところ こそが魅力的に見えてくる。
今日はそんな『重力の虹』の魅力を紹介したい。
🌈『重力の虹』とは、どんな小説か?
この小説はどんな小説だろうか? ①ストーリー、②この小説の立ち位置の2点から説明してみようと思う。
①『重力の虹』のあらすじ・ストーリー
主人公はスロースロップ、連合軍情報局に所属する中尉である。ロンドンでナンパに勤しみ、律儀にもデスクの地図にナンパが成功した場所を記録していた。星形のシールで!
しかし、面白いのはここからだ。ナンパに成功したスロースロップは必然的にホテルへしけこむのであるが、その最中、彼らの近くにV2ロケットが落ちてくる。しかもナンパのたびに落ちてくるのだ。(正確には、どうやらスロースロップの勃起とV2ロケットとの間に関連があるらしい。)
自身もその”法則じみたもの”に気づくのだが、さらに軍部や研究機関や影の組織もスロースロップとV2ロケットの関連性に気づき始める。科学者、スパイ、霊媒師、超能力者……人類の命運を賭けた研究を各人が行っていく。
あらすじを聞いただけで面白いとは思わないだろうか。男性性の象徴である「勃起」と、武器である V2ロケット とが結び付けられている。人によっては悪趣味だと感じるかもしれないが、ピンチョンはそれを上手くコメディに昇華している。
面白いのは、ストーリーだけではない。この小説は、文学史上での立ち位置も独特なのだ。
② この小説の立ち位置
この小説はトマス・マン『魔の山』やG・ガルシア=マルケス『百年の孤独』に近いものがあるかもしれない。百科事典のように知識を集めた小説であり、とにかく重厚なのだ。
歴史に科学に宗教にドラッグに、ありとあらゆり知識がこの小説には詰め込まれている。ファンにとっては、その混沌ぶりがたまらない。
また、登場人物もどこか戯画的で面白い。アニメの”South Park”に近いと言ったら分かりやすいだろうか。とにかくキャラクターが奇天烈なのだ。この本を読むときには、ぜひ”賢いSouth Park”だと思って読んでみてほしい。
🌈 印象に残った部分
小説の随所に見られる箴言(教訓めいた名言)も、ついつい頷かされる。
ロジャーはジェシカに統計的に見たV爆弾について説明しようとしたことがある。上空から天使の目で見たイングランドの地図上での分布と、地上で現実に生きる者にとっての被弾のしやすさとの違いを。彼女はほとんど理解した。……(中略)……が、両者をひとつに結び合わせることができない――静けさの中に身を押し込めた自分自身の毎日を、純粋な数値の横に置き、その二つを同時に視界に入れようとすると、どこか必ず抜けおちたり、余計なものが混入してしまう。
――トマス・ピンチョン『重力の虹』新潮社 p.109 引用者太字
データと実生活の間に何か余計な解釈を挟み込んでしまいたくなる心情というのは、本当によく分かる。あるいは、データまたは実生活のどちらかを見ないようにしてしまう。この本は1973年に出版されたのだが、歴史的な大事件と個人の生活とが結びつかないという感情は、やはりこのときにもあったのだ。
百科事典のような小説だと言われると、どうしても難解に思われて、敬遠されてしまう。しかしこの小説にも、先の場面のように、我々一般の読者にしっくりくるような箇所がある。だから、この本を避けていた方もぜひ挑戦していただきたい。必ずや中毒になるであろうから。
今日は、深遠でありながら親しみやすい『重力の虹』について紹介してみた。これにて記事を締めようと思う。