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【展覧会レポ】 故郷を愛すること、異郷を愛することーカナレットとヴェネツィアの輝き―
去る日曜、新宿はSOMPO美術館に「カナレットとヴェネツィアの輝き」展を見に行ってきた。
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この展覧会は日本初となるカナレット(ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)の展覧会だ。ヴェネツィアを描いた60点を越える絵画が展示されており、とても見ごたえがある展覧会だった。
ヴェドゥータ(景観画)の巨匠カナレット(1697-1768)の全貌を紹介する日本で初めての展覧会です。スコットランド国立美術館など英国コレクションを中心に、油彩、素描、版画など約60点で構成します。カナレットによる緻密かつ壮麗なヴェネツィアの描写を通じ、18世紀の景観画というジャンルの成立過程をたどるとともに、その伝統を継承し、ヴェネツィアの新たなイメージを開拓していった19世紀の画家たちの作品もあわせてご紹介します。
カナレットはヴェネツィアで生まれ、ヴェネツィアで育ち、ヴェネツィアでその生涯を終えた。生粋のヴェネツィアっ子である。カナレットの描くヴェドゥータは故郷への愛着に満ちている。中でも「昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ」は印象深かった。この作品は、「海とヴェネツィアの結婚式」とも呼ばれるキリスト昇天祭を描いたもので、ヴェネツィアとっての一番の晴れの日を瑞々しく色彩豊かに描いている。日の光を浴びて輝く水面を色とりどりゴンドラが行き交う様子は、見た人にまるでヴェネツィアに行ったのかのような没入感を与える。1746年~1756年の間、イギリスに滞在して作品を制作していた。ロンドンやウォリックなどイギリス各地を描いた作品も展示されていたが、ヴェネツィアを描いた作品に比べると見劣りして感じられた。カナレットの筆が一番生きるのは、やはり愛する故郷ヴェネツィアの晴れの日をを描くときなのだ。
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この展覧会には、カナレット以外の絵画も展示されている。連作「睡蓮」でおなじみのクロード・モネや点描の名手ポール・シニャックもヴェネツィアを訪れた。彼らのようなヴェネツィアが出身ではない画家がこの地で描いた絵画も必見である。カナレットら地元の画家とは違う視点でヴェネツィアをとらえていたことがよく伝わってくる。
中でも印象的な作品はヘンリー・ウッズの「サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場、ヴェネツィア」だった。イギリス出身のヘンリー・ウッズは30歳のときに初めてヴェネツィアを訪れた。彼はそのときヴェネツィアの魅力に取りつかれ、この街に定住した。その後、1880年代以降にヴェネツィアを主題とする作品で人気を博した。「サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場、ヴェネツィア」は、ヴェネツィアの市場で働き買い物する人々を生き生きと描いている。ウッズが伝統ある建築や大運河よりもヴェネツィアのありふれた日常に惹かれていたことがよくわかる。日常にある美しさはその地を異郷とするウッズだからこそ気づけたことであろう。カナレットが引かれたのがヴェネツィアの「ハレ」なら、ウッズが引かれたのはヴェネツィアの「ケ」だったのだ。
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ヴェネツィアはカナレットのようにそこを故郷とする画家も、ウッズのように異郷からの旅行者も一度惹きつけたら離さない魅力があったように思われる。この地を描いた画家たちは皆ヴェネツィアに魅せられ、この地を愛していたのではないだろうか。展覧会は今月28日に終了する。一人でも多くの人が足を運んでもらいたい。そして、カナレットたちがヴェネツィアのどのような面に魅せられたのか考えながら、一つ一つの作品を味わってほしい。