【読書感想文】テスカトリポカ
あらすじ
メキシコ大手の麻薬カルテル「ロス・カサソラス」。ある日敵対組織「ドゴ・カルテル」による襲撃を受け、組織は壊滅し幹部は皆死んだかに思えた。
だが一人生き残った男がいた。ロス・カサソラスのトップ・カサソラ4兄弟の三男であり粉の異名を持つバルミロ・カサソラだ。
バルミロは追跡を搔い潜り国外逃亡しジャカルタに潜伏する。そこで日本の医学界を追放され臓器ブローカーをしている末永という闇医者と知り合い、闇の資本主義たる臓器売買ビジネスを興す――
開始1ページ、そのドライな、まるで犯罪を扱ったノンフィクションのような文体で登場人物を生々しく描いていく様を読み「あ、この小説は何かが違うぞ。これは覚悟して読まねば」というのが分かる。頁を捲るとその予感は見事的中し物語の世界にみるみる引き込まれていく。
どんなクライムノベルでも少しの明るさなりポップな要素はあるものだが『テスカトリポカ』にはそういった要素は一切なく、徹頭徹尾容赦なく陰鬱で凄惨だ。ドライな文体がそれらを浮き彫りにし地獄のような物語は圧倒的なリアリティを持ち、この世界のどこかで起きている出来事なのではないかと錯覚してしまうほどの圧を持って読者に迫ってくる。
この物語はどこまでいっても残酷で凄惨だ。犯罪のシーンはもちろんのこと、特に拷問のシーンなど目を背けたくなる程に恐ろしく頭にこびりついてしまうほどに痛々しい。
脅すわけではないがこの小説は最初から最後まで全力でグロテスクでえげつない描写の連続なので読むのにちょっとした覚悟がいるし、そういった描写が苦手な方は気分を害してしまう恐れもあるので避けた方がよいと思う。
グロテスクな表現が大丈夫という方ならば是非読んでもらいたい。作者の佐藤究氏がただただ悲惨で救いのない物語を見せつけたいのではないと分かるはずだ。徹底した取材と資料の読み込みの下に描かれた濃密な悪夢だ。
ネタバレにはならないと思うが最後の方でほんの微かな救いのようなものがある。モヤッとした心残りとはまた違うのだがカタルシスとも言い難いものだ。
ここまで凄まじい小説は久しぶりに読んだ気がする。
間違いなく傑作と呼べる作品であるし繰り返しになってしまうがグロテスクが平気な方には是非一度読んでもらいたい一本だ。
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