花びら
僕の涙が桜の花びらになって、君の鼻先をくすぐって。
君がくしゃみをして、世界に色がついた。
するすると小さく鼻をすすって、空を眺める君。
吐く息が今日は少し白くて、そこに命が見えた。
こんな優しい風が、いつまでも吹けばいいのにね。
花粉症が酷いけれど、この風のせいならばそれすらも愛せるような気がした。
端の欠けたベンチに座って、少しづつ公園に溶けていく。
いつしかここに根付いてしまって、明日の予定が不安になるんだろう。
けれどよく考えたら、今の心地良さより大事な予定なんてものは100年経っても1つもなくて、安心してベンチに滲んでいくんだ。
春の優しさが大好きで死にたくなる。
今死ぬ事ができたなら、きっとどこまでも心地良い。
柔い空気に包まれて、誰にも看取られずに飛んでいけるだろう。
そうして僕は砂になって、この丸っこい空気の中に広がっていく。
春の屍体の、粒子の熱が、積み重なって夏が来る。
「花びら」