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「雛人形」の思い出。4世代の家族の変化。
月初めから風邪を引き、長引かせた50歳の如月。1年で一番短い時間ではあるが、私にとっては長くて濃くて、きっと忘れられない1カ月になった。
3年という歳月の変化
ちょうど3年前に「雛人形」というエッセイを書いた。その1年後に祖母と母が次々と入居することになるとは想像すらしていなかった。3年という歳月を経て、家族の暮らしも私の暮らしも大きく変化した。
母と祖母の今
先週の金曜に母の施設に行き、外出願を出し、市内のお店で一緒にコーヒーを飲んだ。母の歩き方が爪先立ち歩きになっていた。風邪を引いたことでなかなか会いに行けなかったが、母の情緒不安定の加速は聞いていた。夜、一人になると不安でいっぱいになる母。昨日施設に会いに行った祖母は、施設のスタッフ側からの不安行動を、本人は気にかける様子もなく、様子を見るということで施設側と情報共有した。祖母は、先日他界された方に家族がいたことを知ると「それは、よかった」と話していた。
姪たちの今と雛人形
同居の姪は小学6年と中学2年になり、3年ですっかり大人びた。となり街に住む3歳になった姪はコロナになってしまった。まだ、どちらも雛人形を飾っていない。この土日で飾るのかもしれない。今年も雛人形に会いたいな、と思う。そして、姪たちの成長を祈り、母と祖母の健康を願いたい。
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2022年2月28日 エッセイ「雛人形」
如月も今日で終わり。もうすぐ桃の節句だ。先週の土曜日、桃の花や菜の花などを花屋さんでアレンジしてもらい、それを床の間に飾った。今年は雛人形をどのタイミングで飾ろうか、と気にかけていた。一昨日、用事があって近所の幼稚園に行くと、七段飾りの雛人形が入り口に飾られていた。園長の娘さんのために30年前に買ったものだという。
我が家も、幼い頃七段飾りの雛人形をこの時期に飾っていた。あまりにもリアルな人形を不思議な気持ちで扱っていた記憶がある。七段なので、飾るのに時間も手間もかかった。しかし、母と3姉妹で楽しみながら飾って、歌をうたってお祝いをした。七段飾りの他にもケースに入った藤娘など、三姉妹それぞれの誕生を祝って買ってもらった人形も出して飾っていた。
一昨年の今頃だったであろうか。亡き父が姪のために買った雛人形を飾ろうとしたら、母が物置から昔の雛人形を出してきたことがあった。あの頃から母の「物忘れ」は進み始め、現在と過去の区別がつかなくなっていたのだろう。昨日、紹介状を書いてもらった病院で検査をしたところ、アルツハイマー型認知症が進んでいて、感情のコントロールが難しくなっているのだろう、と診断された。元気に物置から雛人形が入っている大きなブリキの箱を何箱も出してきた頃から、歳月は確実に流れた。ここ数年母はできなくなったことが多くなり、情緒が不安定になることも増えた。しかし、あの雛人形たちは物置の中で眠っている。
正午近くに賑やかな声が聞こえると思ったら、妹と上の姪で雛人形を飾っていた。姪はクリスマスプレゼントにもらった携帯で箱の中身を撮っている。毎年私は、飾りつけをする前に、片付けの時にスムーズにいくように箱の中身を記録に残していた。彼女は私の姿を見てその術を身につけていたのだろう。何回か一緒に飾っていた姪は、あっという間に飾りつけを終えた。私譲りの拙速さんの飾りの仕上げは、几帳面な妹が綺麗に整えた。
床の間に飾られた雛人形。その横に私が生けた花。しかし、一昨日、花器の水を変えようと急に思い立った母は、生け変える際に、菜の花とカーネーションの上の茎の部分を見事に折ってしまった。それらは、私の床の間の花器と一輪挿しに飾った。雛人形と並んだちょっと滑稽な花飾りは、わが家らしくてなんだか笑える。雛人形の前で並んで座る姪2人の写真を妹が撮る。もう、8歳と10歳になった姪。亡き父もあっちで喜んでいるであろう。
祖母の一声で、妹と姪で桜餅を買いに行った。もちろん、祖母の懐から桜餅の御代が出る。しかし、夕方近かったため、品切れの店ばかりで何件も梯子したとのこと。しかし、祖母の気持ちを台無しにできぬ執念から無事に手に入れた妹と姪。貴重な桜餅を4世代の女6人で、雛祭りの歌をうたってから食べた。それぞれがあっちこっちを向いてはいるが、歌声は自然と揃う。
コロナ禍だからだろうか、こんな些細な日常が特別に感じる。雛祭りを前に、姪をはじめ人々の無事を強く強く願う。
(おわり)
雛祭り
今年は節分をうっかり忘れてしまった。その分、少なくとも私は私の雛人形を飾りたい。友人が益子で買ってきてくれた雛人形を出そうと思う。家族の無事を願い、自分のしあわせも願い、みんなが少しでも生きやすくなってほしいと願いたい。
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2月は体調不良の中にもかかわらず、結構仕事もがんばった。大きな決断もした。雛祭りまでに気になっている仕事も形にしたいと思う。せっかちな私だから、気持ちゆっくりめに過ごせたらと思う。