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『オッペンハイマー(映画)』〜衝撃の1400億円興行収入と興味深さと違和感――「オッペンハイマー」鑑賞記

視聴環境:Amazon prime video


【内容】
アメリカの原爆開発「マンハッタン計画」のリーダーを務めたオッペンハイマーの半生を描いたクリストファー・ノーラン監督作品。

※多少ネタバレします。


【感想】
どう考えても重苦しい内容だろうと敬遠していましたが、Amazon Prime Videoで配信が始まったので視聴してみました。結果、非常に多層的なテーマを持つ作品でした。
歴史、人間性、アメリカ社会、大量虐殺の加害責任など、さまざまな視点から語れると感じました。
過去と現在の時系列がバラバラに配置され、オッペンハイマーの主観的な精神世界を通して、マンハッタン計画や人間の歴史を描いていました。説明を極力省き、観客に深く考えさせる構造が特徴的でした。
多くの登場人物が複雑な人間関係を繰り広げ、さらにオッペンハイマーの脳内に浮かぶ幻想的なビジョン(光の粒子や炎のイメージ映像)が随所に挿入されています。個人的には事前にマンハッタン計画やフォン・ノイマンに関する本を読んでいたので理解できましたが、予備知識がない観客にとっては難解な部分も多いと感じました。
また、オッペンハイマーの恋人との濃密なセックスシーンや、幻覚として描かれる研究者同士の会議中のセックスシーンなども印象的でした。これらのシーンは暴力的かつ艶やかな雰囲気を作品に加える一方で、果たして効果的かどうかは議論の余地があると感じました。ただ、彼の精神的な弱さや混乱を象徴する表現としては成功している面もあるでしょう。また、こうした刺激的な演出が、科学的議論や複雑な人間関係ばかりの展開を回避し、エンタメとしてのバランスを保つ役割も果たしていたように思いました。
それにしても、マンハッタン計画という重厚な題材を、巨大な予算をかけて科学者個人の物語に仕上げたことは非常に挑戦的でした。この企画自体、100億円以上の資金を投じた大きなギャンブルにも思えました。『ジョーカー2』が莫大な制作費を回収できなかったことを思い出すと、日常的に物価高に悩む身としては、このような規模の映画制作に狂気すら感じました。
しかし、最終的に興行収入は1400億円以上を記録し、数々の賞を受賞。海外の映画監督や評論家からも高い評価を受けたことを考えると、大成功だったのは間違いありません。
個人的には、原爆の描き方については複雑な感情が残りました。思想実験的な手法とはいえ、大量の死者を出した歴史的事実をエンタメ作品として扱うことには抵抗感があります。この点で、観賞後もモヤモヤとした感情が拭えませんでした。

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