『あんのこと(邦画)』〜叫びにならない叫びのような、現代日本の困窮する若者の精神的ドキュメンタリー映画
河合優実の、生きた証のような演技に圧倒されました。彼女の荒んだ表情、どこか焦点の合わない瞳、そして無気力な佇まいは、まるでドキュメンタリーを観ているようでした。
佐藤二郎が演じる熱血漢でありながらどこか影のある刑事は、コメディリリーフな面もありながら、物語を後半を意表を突き、この現実の世界の不可解さを象徴するような人物を演じきっていました。
稲垣吾郎のどこか引いた演技は、この物語に不思議な客観性や現実との地続き感を感じさせるものでした。
この3人を始めとした出自や質の全く異なる演技によるアンサンブルによって、この映画ならではの魅力を発揮していると感じました。
また、長回しを多用した映像は、まるで観客が主人公の日常に密着しているかのような感覚を与え、作品のリアリティを際立たせていました。
主人公が暮らす古いアパートの雑然とした様子なども、映画としてのリアリティを演出していました。
この映画は、単なるエンターテイメント作品ではなく、社会の闇を描き出す重厚なドラマなのだとも感じました。
コロナ禍という特殊な状況下で生きる人々の姿を映し出し、観る者に深い思索を促す。河合優実の演技は、この作品の最大の目玉であり、彼女の才能を改めて感じることが出来ました。
入江悠監督は、『SRサイタマノラッパー』シリーズから大きく成長し、より深みのある作品を作り上げたのだと思いました。本作は、彼の監督としての才能を改めて感じさせる秀作だと感じました。
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