『ある男(邦画)』〜愛した夫は、誰なのか?
視聴環境:U-NEXT
※ネタバレします。
【内容】
愛する夫が事故で亡くなった後、彼が名前も出身も偽っていたことを知った妻。彼女は夫の真実を知りたいと願い、妻の依頼された弁護士はその謎を追い始める。
平野啓一郎のべすとせらー小説の映画化作品です。
【感想】
偶然にも平野啓一郎さんのトークイベントに当選。しかし、彼の小説をまだ読んだことがなかったため、せめて映画を観てから参加しようと決意し、この作品を観ました。
映画では、さまざまな役者たちが「普通の人」を見事に演じており、全体として抑えた演技が印象的でした。日常生活でも、私たちは皆、ある意味で「普通」というペルソナを被って生活しているのかも知れないなんてことを考えたりしながら観ていました。
窪田正孝が演じた亡くなった夫役、柄本明の服役中の詐欺師役、でんでんのボクシングジムのトレーナー役、河合優実の飲み屋の店員であり夫の元恋人役、真木よう子の弁護士の妻役、それぞれが見事に、現実と地続きな人々を演じていました。
特に印象に残ったのは、安藤サクラが演じる文房具店の店主の演技でした。自分の住む街のちょっと先にある商店街の文房具屋でそっと店番をしているのではないかと思うような自然な雰囲気でした。彼女はどんな役でも完璧になり切る実力派ですが、『万引き家族』の荒んだ女性役が強烈だったため、このようなテンション高めに感情を爆発させたり、擦れた生活を匂わせる役でもない、普通の人をリアルに演じ切る姿に、やはり凄い役者さんだなあと感じました。
また、安藤サクラ演じる妻と、亡くなった主人公が愛した男性の偽りの戸籍上の兄とのやり取りも生々しく、エチュード的な自然なやり取りが心に残りました。明らかにあのやり取りは脚本では書けないタイプの演技なのではないかと感じました。
死んだ夫役の窪田正孝の演技も多様なシチュエーションで光っていて、非常に良かったです。最近、彼をいろんな作品で見かけますが、その真摯な演技が彼の魅力を支えていると感じました。
この映画は『蜂蜜と遠雷』の石川慶監督作品で、才能溢れる監督だと強く感じました。現実に寄り添った独特の手触りがあり、生きることを独自の視点で問い直すような映画です。力のある役者たちがその力を存分に発揮し、過剰な演出に頼ることなく、誠実に物語を伝えている作品だと感じました。
原作小説はまだ読んでいませんが、この映画を観たことで、ぜひ読んでみたいと思いました。また、この監督の他の作品ももっと観てみたいと思いました。
https://movies.shochiku.co.jp/a-man/
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?