テニス上達メモ081.フォーム矯正は体への冒涜か?
▶「素直(素のまま真っ直ぐ)」が能力を育む
昨日の『テニス上達メモ』では、人間は素直(素のまま真っすぐ)であれば、スクスク、伸び伸びと、その能力を育むことができるという話を、「子育ち」として綴りました。
子育てではなく、子育ち。
テニス初心者は、実年齢は大人であっても、コート上ではよちよち歩きの子どもです。
アドバイスされなくても、そのプレーヤーに見合った打ち方は、ちゃんと身につく。
人間にはそんな素晴らしい能力が備わっています。
ちなみに繰り返しになりますけれども、ここでいう「素直」とは、何でも言うことを聞いて従ういわゆるお利口さんではなくて、むしろ反対の、自分の素(気持ち)を、人目を気にせず、そのまま真っ直ぐ出せる性格なのでした。
▶空振りするのは難しい?
アドバイスされなくても、そのプレーヤーに見合った打ち方は、ちゃんと身につく。
その証拠に、たとえばテニス初日を除けば、ストロークで空振りするのは今後の長きに渡るテニス人生において、非常に難しくなります。
もう、できなくなるかもしれない。
いえ初日でさえ、上手く当ててしまうかもしれません。
よほどわざと(つまり意識して)、振らない限り、ボールはラケットに当たってしまう。
ゴルフの角田陽一メンタルトレーナーは、より小さなゴルフボールを、より小さなフェイスサイズで打つゴルフにおいても、「99パーセントの(ゴルフの)ストロークは空振りできない」といいます。
▶「人それぞれ」を受け入れて、自分らしいスイングを身につける
意識して「当てる」のではなく、無意識が「当ててしまう」。
そういう能力を、人間は持っているのです。
そのプレーヤーに見合った打ち方というのは、備わる筋力や筋肉の柔軟性、関節可動域、神経伝達スピード、手足の長さ、手のひらの大きさなど、普段は意識できない潜在意識の領域で体が起こす反応。
それらが「人それぞれ」なのだから、表面的に映るフォームだけトッププロをなぞらえようとしても、無理筋です。
いくらピート・サンプラスのサーブが凄まじかったからといっても、左右のヒジが背中側でつく柔軟性があってのしなやかさに由来するプロネーション。
前屈して指先が床につかないプレーヤーだと、真似るのはおぼつかないでしょう。
▶スイングは「生理現象」
プレーヤーに見合った打ち方が現れる。
それはどちらかというと、生理現象に近いと私はよくたとえます。
気温が低いと毛穴が閉じて体温を逃がさないように反応します。
逆に気温が高いと毛穴が開いて汗を出し、オーバーヒートしてしまわないように体温を逃がす反応を示します。
そしてそれらは、代謝や免疫、血流、体質など、顕在意識では意識できない潜在意識の領域で体が起こす反応。
発汗というのは、意識して「汗を出す」のではなくて、五感を通じて得られた「寒い」「熱い」などの情報を通じて、無意識で「汗が出る」のですよね。
▶「打ちたい!」瞬間
テニスのスイングというのも、意識して「テイクバックを小さくする」のではなくて、五感を通じて得られる「速いボールが来た!」などの情報に応じて、無意識でテイクバックが「小さくなる」体による反応といえるのです。
冒頭で指摘した空振りできない問題。
ボールにラケットを当てるのではなくて、汗を出すのではなく「出る」のと同様、体の生理的な反応により「当たる」のです。
ボールに集中していれば、「打ちたい!」と感じる瞬間があります。
「打たされる」「打たなきゃ」の義務ではありません。
体の内側から湧き起こる生理的な反応なのです。
▶体は精緻。そのシグナルを役立ててアクションを妨げない
私たちの体は、とても精緻にできています。
だるくなってくれる(なってしまうのではなくて)のは、「これ以上働くのは危険だから休め」という体からのシグナル。
疲れを感じてくれないと、働き続けて過労死してしまうかもしれません。
咳をしてくれるのは、有害なウイルスなどを体外へ排出してくれる体によるアクション。
咳が出ないと、体内でウイルスが蔓延するでしょう。
それなのに、だるくなったり咳が出たりする体による反応を、悪いものだとジャッジメントする。
それは雨が自然現象であるのと同じ、体による生理現象。
良いも悪いもありません。
むしろ咳は、追い出されるウイルスにとっては悪くても、人間にとっては良いとすら言えます。
にも関わらず、栄養ドリンクを飲んで元気を出したり、薬を飲んで咳を止めたりするのは、優秀な体によるシグナルやアクションを帳消しにする逆効果にすらなりかねません。
表面に現れる症状は「出てくれている」のですから。
▶「症状に手をつけない」が鉄則
テニスも同じなのです。
『怖れないテニス』の繰り返しになりますけれども、のけ反ったり、横に逃げたり、前のめりになったりする、一般的にNGと評価されるフォームの乱れは、体による優れた反応です。
その表面的に現れる見た目の症状へ直接的に手をつけて、正しいフォームとされる「背筋まっすぐ!」に矯正したとしても、それは薬で咳を止めるのと同じその場しのぎの対処療法でしかありません。
確かに咳は止まってくれるのと同じように、見た目の体軸は保たれるかもしれない。
ですが本質的な改善にはまったくなっていないどころか、優秀な体によるシグナルやアクションを帳消しにする逆効果にすらなりかねないのです。
▶イップス治療の「基本中の基本」
症状に手をつけない。
これはイップス治療においても、「基本中の基本」です。
イップスでは、腕が勝手に暴走します。
だからといって若かりしころに自ら発病した専修大学教授は、「ギプスで固定しようと試みた」とテニスメディカルセミナーの講演で明かしましたけれども、それでは治らなかったと顧みます。
イップスでは、腕が勝手に固まります。
だからといって「バックアウトは気にせず振り切って」などと伝えても、まったく改善されません。
むしろ「ギプスで固定してもダメだった」「結果を気にせず振り切ってもダメだった」とばかりに、自分へのダメ出しが自己肯定感を損なうはめにすらなりかねず、ますますイップス克服に向けて「絶望」を感じてしまいます。
▶痛みを感じてくれる体。不安を感じてくれる心
「私たちの体はとても優秀」。
何度繰り返しても、しすぎることはないフレーズです。
痛みを感じてくれるから、指を包丁で切った瞬間に、皮膚から刃先をサッと遠ざけてくれます。
体が痛みを感じてくれなければ、そのままスパスパ切り続けるかもしれません。
心が不安になってくれるから、安全ではない状況に備えることができます。
心が不安を感じてくれなければ、危険なギャンブルに手を出すかもしれません。
▶意識してできる非ではない「反射神経」
体に備わる反射神経など、意識して出せるスピードや正確さの非ではありません。
横から飛んできた当たると危険なボールを、すんでのところで交わします。
「前向きのままだから横を向いて!」
「前かがみだから軸を正して!」
「ヒザが伸びているから腰を落として!」
そういった表面的に現れる症状に手をつけようとする対処療法により、せっかくの優秀な体によるシグナルやアクションも、これでは台無し。
精緻な体による反応に対する冒涜といったら、言いすぎでしょうか。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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