質問027:どうしても、ボールが浮きすぎる
回答
▶「歓迎されないホームラン」が嫌というほど出る
お困りのショットはストロークという想定で回答を進めます。
サーブやボレーでは話が違ってくので、その場合は改めてご連絡いただければと思います。
野球経験がおありで、すでに球感が身についているのであれば、テニスもすぐに上達すると思います。
ただ、テニスになると、野球のころはなかなか出にくかった「ホームラン」が、当初は嫌というほど連発されます。
野球経験者でなくても、多くの人が一般的にスイングというと、「上から下」or「後ろから前」に振る動作イメージを持っているので、飛ばしすぎてしまうのです。
▶テニスは飛ばすより「飛びを抑える」のが難しい
顧みると、野球のバッティングはもとより、薪割りでも餅つきでも布団たたきでも、日常生活に「振り下ろす」動作はたくさんあっても、「振り上げる」スイングは少ないのかもしれません。
テニスでは、野球やゴルフや陸上競技の投擲種目などと違って、「満足に飛ばせない」という問題は、実はほとんどありません。
逆にフルスイングしながら「いかに飛びすぎを抑えるか」が、テニスの難しいところだと言えます。
▶「飛びすぎ」を抑える技術
そして飛びすぎを抑えるために有効なのが、「トップスピン(※注1)」という打球技術です。
先述した、「上から下」や「後ろから前」へのスイングは、テニスでいう「スライス」や「フラット」と呼ばれる球種で、バッティング感覚でフルスイングすると、飛ばしすぎる危険があります(もちろん上手く使えば有用で、経験を積むに従い身につける技術です)。
ご自身の場合は野球経験者であり、ボールが浮きすぎる症状から、バッティングのようなスライス系のダウンスイングになっていると疑われます(物理の法則を踏まえれば、テニスはもっとシンプル)。
▶ボールに回転をかけて空気との摩擦を発生させる
トップスピンというのは、テニス(や卓球など)に特有の、おもには「下から上」へラケットをスイングしてストリング面とボールとの間に「摩擦」を生じさせ、ボールに進行方向の順回転をかける打ち方です(打つプレーヤーから見ると、ボールが下から上へ縦に回転をするモーメントになります)。
この物理学は端よっていただいて構わないのですけれども念のため説明しておくと、順回転をかけるとボールの上側では進行方向に対する空気抵抗が強くなって圧力が高まります。
一方の下側では進行方向に対する空気抵抗が弱まって圧力が下がります。
簡単に言うと、ボールの上側は向かい風、下側は追い風のイメージですね。
上下で生じた気圧の差により、力は圧力の高い方向から小さい方向へ働くから(ベルヌーイの定理)、トップスピンは下向きの揚力を得てバックアウトしにくくなります。
物理学的には「マグナス効果」あるいは「マグヌス効果」と呼ばれます。
もちろん「下から上」にラケットを振るといっても、実際のスイングでは「後ろから前」へのベクトルも合わさり、ボール推進力と回転量とのバランスを状況に応じて釣り合わせます。
▶トップスピンは「難しくない」
スライスは逆回転なので、圧力のかかり方が逆になって上向きの揚力が作用し浮きやすく、フラットは無回転(に近い)ので、まっすぐ飛び続けようとします。
なので飛ばしすぎてしまうというのであれば、慣れ親しんだバッティング感覚でスイングしているため、野球にたとえると「フライ(スライス)」や「ライナー(フラット)」の要素が強くなりすぎているのだと拝察されます(もちろん技術を磨けば、スライスやフラットでフルスイングしても、コート内に収まるボールが打てます)。
トップスピンは、特別難しい技術ではありませんので(厳密にいえば、フラットでもナチュラルな順回転は発生します)、身につければ強打をコート内にコントロールできる武器になるため、多くの選手がこの球種をベースにストロークを行います。
▶素振りで動きを筋肉に慣れさせる
素振りは、なめらかなスイングを身につけるための練習です。
まだ慣れていない下から上へ振り上げるスイング動作を、筋肉に慣れさせます。
とはいえフォームを意識したり、固めたりするのが目的ではないですし、それをするとまったくの逆効果です(「フォーム固め」という呪縛)。
特にテニスの場合は野球のようにストライクゾーンが定まっておらず、相手のショットがバックアウトしない限りは、前後左右も、高いも低いも、『ドカベン』岩鬼正美の悪球打ちよろしく、あらゆるボールを打ち返す必要のある競技です。
フォームを固めてしまうと、さまざまな悪球(?)に対応できなくなります。
▶選手には「事情がある」
確かに、「足を使っていつも同じ打点に入って打つように」と指導はされますけれども、それが毎回できるとすればそれはテニスという競技スポーツではなく、お膳立てされたお遊戯会。
一流のトッププロでさえ、のけ反ったり、大股になったり、あるいは飛ばす方向とは後ろ向きになって股の間から打ち返すシチュエーションもあります。
ボールから遠からず近からず、腰の高さで、たとえそれが理想だとしても全部が全部、打てるわけではありません。
プレーヤーには、「そうなる事情」があるのです。
そこで指導者が「のけ反らずに背筋を正して打て」などと注意するから、余計にテニスが難しくなってしまいます。
▶なめらかさには限りがない
素振りはフォーム固めではなく、なめらかに、しなやかに振り切れるようになるのが目的です。
下から上へ振り上げるスイングに慣れていないプレーヤーが、その運動を繰り返し行うことで、筋肉に一定傾向の動作を覚え込ませます。
厳密に「何度の角度で振り上げる」「そのためにはワキを締めて……」などとフォームを固めるのが狙いではありません。
ただしこう言うと「素振りぐらい、なめらかに振れている!」などと言う人もなかにはいますけれども、なめらかさには限りがありません。
そのスイングはたとえば本当に、ロジャー・フェデラーくらいなめらかなのか?
反復して行うと効果的です。
頭で理解するのではなく、体で実際にやってみる「実践」が何より大切です。
▶理解したからといって「できる」わけではない
世の中の指導書には、「こうすればできる」「ああすればできる」などと、あたかも頭で理解すればできるようになるかのごとき表現が用いられるところに疑問符がつきます。
それは、無理筋なのです。
自転車の教本をいくら読んでも、実際に乗ってみなければ、乗れるようにはなりません。
英語の文法をどんなに頭で理解しても、実際に英語を話したり聞いたりしなければ、英会話ができるようになりません。
ですから英会話も、口(話す)や耳(聞く)や手足(身振り手振り)といった体を使って実践する「体育」です。
そうすると10倍超の習得スピードを実現できます(テニスと英会話のそっくりすぎる共通点と、「10倍速超」の習得法)。
▶ロボ化するプレーヤー「ふたつにひとつ」の正体
話を素振りに戻します。
注意点としては、一般的なテニス指導でよく言われるような、「手首の返し」や「ヒジのたたみ」「ヒザの曲げ伸ばし」など、細かい動きや形は気にしません。
そういった指摘は「手首」「ヒジ」「ヒザ」などに関する「部分限定」の改造ですから、せっかく「流れ」「調和」「連動」で振れている状態につぎはぎの修正を行うハメとなり、全体としてのスイングバランスは崩すのです(すでにフォームは完璧)。
実際に打つ時にも、「ギクシャク感」を招く強烈な原因です。
やじろべえはせっかくバランスが取れているのに、「足は2本あったほうが安定する」などといってもう1本付け加えると、バランスを崩すのです。
コート上には、ギギ、ガガと聞こえてきそうな、まるでロボットのような動き方をしているプレーヤーも少なくありません。
それは先述したなめらかなスイングにまだ慣れていないか、あるいはフォームを意識しているからの「ふたつにひとつ」です。
▶「アウトプット」してから「インプット」する
ただしボールを打ちながら、なめらかにスイングすることを意識する必要はありません。
ですから素振りで慣らします。
打つのは「出力」、覚えるのは「入力」なので、情報の出し入れが混乱しやすくなるのです。
実際に打つ時には、スイングではなく、ボールに集中しないと、上手く打てずストレスが溜まってしまいます。
ご自身のように、実際に打ってみて出力してから、入力するスイングを調整するプロセスが吉。
つまり一般的に思われているのとは逆で、「インプット」よりも「アウトプット」が先です。
▶自分の振りで、自分の回転を、自分の目で見る
トップスピンをマスターする工夫として、ボールにマジックで十文字を描き、回転の様子を観察するように努めてみてください(回転の味見)。
あるいはキッズやジュニアプレーヤー向けに開発された、柔らかくて回転をかけやすく、かつ2色デザインでサイズが大きくて見やすい「PLAY+STAY(プレイアンドステイ)」を使って大人が練習するのも効果的です(公文式を参考にした「ステップダウン」で飛躍する)。
自分のスイングで、自分の打ったボールの回転を、自分の目で確かめます。
それぞれの相関が感覚的に分かるので、回転のかけ方や回転量をコントロール(※注2)するコツをつかめます。
誰かのスイングや誰かの回転を見たり、自分の回転を誰かに確認してもらったりしても意味はありません。
素振りでスイングがなめらかになり、摩擦により生じる回転のメカニズムと目で見た回転の様子がイメージされれば、トップスピンをコントロール(※注2)できるようになります。
※注1
正確には「トップスピン」というのは球種の呼称であり、対義語は「バックスピン」。バックスピンの打球技術である「スライス」の対義語は「ドライブ」なのですけれども、日本では一般的に順回転系は「トップスピン」、逆回転系は「スライス」と区別されています。
※注2
コントロールというのは、左右の方向性だけではなく、弾道の高さ、回転量、スピード、飛距離(深さ)といったボールに対するすべての操作を指します。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero