テニス上達メモ094.「予測」しなければあらゆるボールが「想定内」
▶「想定外」のボールはプロでも捕れない
対応に苦慮するのは、相手から想定外のコースへ打たれたときです。
言い方を変えれば、打たれるボールが速くて厳しいコースであったとしても、それが想定内であれば楽に対応できるものです。
プロにアマチュアが挑戦するエキジビジョンマッチでの出来事。
相手がフルスイングしたのにフレームショットでネット際へポテンヒット的に落ちた場合は、プロであってもアマチュア相手のボールさえ捕れません。
「フルスイングのドロップショット」は、想定外だったからです。
むしろフルスイングから放たれるボールは、速くて深く飛んで来てくれたほうが、楽に対応できるのです。
▶「そっちかー」が口を衝く
当たり前のような話をしていますけれども、多くのプレーヤーが想定外へ打たれて困っています。
曰く「そっちかー」。
「そっちに来るとは思わなかったよ!」。
ポイントを取られたあと、口をつくプレーヤーは少なくありません。
なせ、このような事態が起こるのでしょうか?
▶「予測せよ」とは言うけれど
当たり前のような話なのですが、当たり前の対応ができないという話をしています。
常識的なテニス指導が、相手の返球コースをフォームなどから判断して「予測」するように教えるからです。
曰く「相手の体が開いていたらクロスだ」「閉じていたらストレートに来る」。
あるいは「踏み込み足の方向を見て返球コースを予測せよ」。
または「インパクトする直前のラケット面の向きが」ウンヌン……。
▶視座をひっくり返せば見えてくること
しかしこちらでも述べているとおり、テニスは視座を180度ひっくり返して逆の立場から見てみると、よく分かるのです。
自分がストローカーの時はストレートが抜けないような気がするし、自分がボレーヤーの時はストレートを抜かれるような気がするのでしたね。
でははたして自分が打つときに、体を回したからといってクロスに打っているのか。
足を踏み込んだ方向へボールをコントロールしているのか?
インパクトする直前のラケット面でコースを変えようとしているのか。
必ずしもそうとは限らないはずです。
▶予測するから、当てが外れる
自分が打つときにはそうではないのに、相手が打つときにはそうだと決めつけて予測するから、想定外の事態に見舞われます。
踏み込み足からコースを予測しようとした場合、相手がフルオープンスタンスだったらどうでしょう?
意識は瞬時に「アレ?」「分からない」「どっちだ?」などと戸惑います。
踏み込み足の方向で予測できる当てをしていた当てが外れるのです。
相手に打たれたら1秒足らずでこちらのふところへボールが飛んでくるテニスでは、一瞬の戸惑いが致命傷です。
▶トスの位置から相手のサーブを予測する?
こういうと、「想定するために予測するんだ」という声が聞こえてきます。
なるほど、予測すれば想定内に収めることができると考える。
まるで予測が全部「当たる」ことを前提に話が進められます。
とはいえこちらでも述べましたが、相手のサーブを受ける立場で、比較的時間があるから予測がしやすいシチュエーションのレシーブでさえ、センターに来るのかワイドに来るのかボディに来るのかの3択。
レシーブでは、「相手サーバーのトスの位置からコースを予測せよ」などと言われます。
仮に3択のうちの「バックに来る」と3分の1の確率を予測したら、残り3分の2は想定外となります。
▶予測は「確率的に不利」を招く
予測が外れるから、想定外が起こるのです。
予測をピンポイントに絞り込むほど、想定外の領域は拡大することになるからです。
3分の1を予測すれば、3分の2が想定外。
さらにセンター、ワイド、フォアボディ、バックボディのいずれか4分の1まで絞り込めば、ほかの4分の3が想定外です。
予測の密度を上げるほど、想定外の領域は広がります。
そしてその予測は視座をひっくり返して確認したように、必ずしも当たるとは限りません。
すなわち公式は次のとおり。
不確実な予測(−)✕高密度(+)=マイナス
なので、「クロスに打ち返されそうだ」と予測したプレーヤーほどストレートへ打たれると、「そっちかー」となるのです。
▶予測しなければ「すべて想定内」
端的に考えると分かりやすいのです。
たとえばダブルスゲーム形式の練習でコーチがストローカーの生徒さんへ「1球目はフォアへ出すよ」と、事前に宣告したとします。
すなわちストローカーは、フォアの予測はばっちりです。
すぐにフォア側へボールが飛んで来たときの動き出し方、打つ球種、打ち返すコースがシミュレーションされ始めます。
球が出される前にも関わらず、重心もややフォア寄りへ片寄るかもしれません。
にも関わらず誤って(あるいは意図的に)バック側へ配球されたら、余計に対応に苦慮するでしょう。
ばっちり予測を立てれば立てるほど、それ以外の可能性が想定外になるからです。
ですが、「フォアへ出すよ」と事前に知らされなければ、バックも「もちろん想定内だった」というわけなのです。
▶予測するから「遅れる」
「予測しないと間に合わない」「予測しなければ捕れない」。
そのように思い込んでいたプレーヤーにとっては、意外だったかもしれません。
実は予測していたから想定外のコースを自ら増やし、むしろ対応に苦慮する事態を招いていたのです。
バックに来ると予測を定めれば定めるほど、バック側への始動が早くなり、振れ幅も大きくなるぶん、フォア側へ来た場合の対応が遅れます。
▶予測をやめると「やりやすくて仕方がない」
こちらの実験でも確認しました。
相手とお互い近い距離でゆっくり打ち合うボレーボレーを、フォアとバックのどちらサイドへ飛んで来るかを予測しながら試してみると、「やりにくくて仕方がない」のです。
予測すると「考える」から反応が遅れるのに加えて、予測したバックとは逆サイドに来たら、改めてフォア側へリルートする遠回りになるからさらに遅れます。
予測をせずに飛んで来たサイドへ、ホイホイと都度対応したほうが素早く正確な動きとなり、ボレーボレーは長く続くはずです。
見方を変えると、予測していたプレーヤーは予測をやめるだけで、「やりやすくて仕方がない」という安心感を手に入れられます。
▶あらゆるコースを「想定内にする方法」
想定内であれば対応に苦慮しないと述べました。
だから予測をして想定するのだと思い込みがちです。
しかし予測すると、想定外が起こります。
ホイホイ対応ができたことから分かるように、予測しないでいると、想定外は起こりません。
「フォアへ出すよ」と事前宣告がなければ、バックも当然のごとく想定内です。
すなわち「あらゆるコースが想定内」だから、対応力が上がるという逆説。
ストレートもクロスもどちらも予測しなければ、どちらに打たれても想定内。
だから楽に対応できるのです。
▶おまけ1・始動が早くても意味がない
予測すると意識は未来へ飛びますから、「今・ここ・この瞬間」のボールにも集中できません。
先に紹介した試合形式の練習で、「球が出される前にも関わらず、重心もややフォア寄りへ片寄るかもしれない」というくだり。
これは自分でも気づかないうちにボールから注意が逸れているため、体が無意識にそのような反応をするのです。
動き出しが早いからよい、というわけではありません。
テニスを上手くプレーするには、ボールに同調して動く必要があるのです。
▶おまけ2・中心視野で見える範囲は「針の先」
また相手のフォームを見て予測している最中は、同時にボールが見えていません。
見えているとしたら、広い範囲をぼんやりと眺める見方になっています。
『新・ボールの見方』で確認したように、対象をくっきりと捉えられる中心視野で見える範囲は、どんな人でもロジャー・フェデラーであっても、「針の先」とたとえられます。
相手のフォームを見ながらだと、たとえ予測が当たったとしてもボールへの集中は途切れているからスピード感や距離感を見誤り、結局は打ち損じてしまいます。
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