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学びの作法と支え合う学びのマインドセット ~謙虚さ・ケア・利他・互恵性~

1 学びの作法

 今回は、学びを成立させる教室での作法について考えてみます。
 学びの作法とは、学ぶ側と支える側の心構えと所作のことです。作法は、日常生活上の行為のきまり、しきたりですが、それに従った方が誰から見ても美しく、誰にとっても心地よいと感じる、他者と生きるための経験則でもあります。
 ここで言う学びの作法は、「自立したよりよい学び手となるための作法」であり、「学びの場にふさわしい人間関係づくりのための作法」であり、「全員に学びの機会を保障するための作法」です。この作法に従うことで、誰にとっても心地よい空間が生まれ、誰もが学びの喜びを感じ、誰もが学びの成果を手に入れることにつながるでしょう。

① 謙虚さの関係性を築くための作法 
 <仲間の言葉に注意深く耳を傾ける> 

② 相互依存によって自立するための作法 
 <自ら仲間の力を借りる> 
 <分かったふりをしない>

③ ケアと利他で支え合うための作法 
 <さりげなく手を差し伸べる> 
 <頼られたら最後まで見捨てない>

 

教え合う関係と支え合う関係

 このような作法が根付いた教室は、教え合う関係ではなく、ともに支え合う関係によってつながっています。教え合う関係とは、一方的な説得と意見の押しつけの関係です。教える側の独りよがりと、教えられる側のありがた迷惑によるすれ違いは、時に両者の関係を破綻させます。そして、上下、支配と被支配、優劣による人間関係の固定化を生みます。また、一方的に教えようとする行為は、「私はあなたとわかり合う必要がない」「あなたの弱さは私には関係がない」という意識を前提としており、他者理解と共感を拒絶しているといってもよいでしょう。
 それに対して支え合う間関係とは、「あなたのことを私は知らないし、知ることは難しい」「あなたの弱さを共有することは難しいが、隣に居ることはできる」という意識を前提としています。その前提にもとづいて、他者を理解し、他者を優先しようとするのが支え合う関係です。このような関係で学ぶ者同士は、互いに関係を再構築し、自己を再発見するでしょう。
 

2 支える側の心構え(マインドセット)

 支える側のマインドセットとして、謙虚さ、ケア、利他、互恵性の4つを挙げておきます。

(1)  謙虚さ

 支える側がおせっかいと独りよがりに陥らないために、まず、「あなたの心の中を知ることは私にはできないかもしれない」という前提に立つことが必要です。このような他者の人格への敬意と、それに対する謙虚さがなければ、相手を支えることはできません。あなたと私が捉えている意味は同じではない。あなたと私の理解の仕方は同じではない。あなたと私が描いているイメージは同じではない。このような謙虚さを大切にする人は、自分が言葉を発することに慎み深くなり、それよりも相手の声に注意深く耳を傾けようとするでしょう。

(2)  ケア

 他者の学びを支えるためには、相手の人格を尊重し、「あなたが感じている悲しみや不安や戸惑いと同じ場所に立ってみる」という意識が必要になります。他者の弱さをともに感じ、同じ場所に立ちたいと願うのは、ケアの関係であるといってもよいでしょう。あなたの声を聴き、問いかけ、悲しみや不安や戸惑いを共有したいと願う。あなたの、わからないことへの歯がゆさ、自信を持てないことへの不安、納得できないことへの苛立ちの理解を試み、隣に並んで歩いてみる。このような意識で、「あなたが分からないと言うのはそういう意味だったのか」「あなたと私の意見が違うのはそこに意味の捉え方の違いがあったからなのか」と、ケアに根差した相手理解に謙虚に努めることが必要でしょう。

(3)  利他

 謙虚さとケアを基盤とし、その上で相手の学びを支えようとする行為は、利他的であるはずです。利他とは、「あなたが必要としていることを私のことよりも優先する」ということです。また、「あなたを支える行為に対して見返りを求めない」という心構えも大切です。見返りを前提とした行為は利他ではないからです。歩調を合わせながらあなたの手を引く(背中を押す)。必要としている足場をあなたへ差し出す(贈り物を贈る)。他者の学びへの利他的な関わりは、相手の小さな声を注意深く聴きつつ、手探りで行っていく、慎み深い行為でなければなりません。一方で、贈与には返礼が伴うのも事実です。あなたへの贈与は、いつか、どこかで、誰かから、返礼がある。このようなこともまた真実です。

(4)  互恵性

 協同的な学びにおいて、教えられる側だけでなく教える側にもメリットがあることを、学びの互恵性と表現します。相手に伝わるように言葉を選んだり、相手が理解できるように伝え方を工夫したりすることで、教える側もまた理解を深める状況が生まれる。それが教える側のメリットです。もちろん、他者と支え合って学ぶことでそのような状況が生まれることは事実でしょう。しかし、他者と支え合うことは、それ以外にも互恵の可能性を秘めています。
 協同的な学びでは、私とあなたは異なる知識を持ち、理解の仕方も異なることが前提でした。異なる他者が出会うことで、思いがけない発想の飛躍が生まれることがあります。そのような発想の飛躍は、創発ということができるでしょう。多様性を基盤とした社会では、異なる他者と知識を交換し合うことが欠かせません。異なるあなたと私が互いに支え合うことで創発が生じる。協同的な学びは創発的な学びでもあるのです。このことは、教える、教えられるという関係を超えて互いに依存しあっているとみなすことができます。互いに依存し合うこと(相互依存)もまた互いの自立をもたらすのです。
 
 ここまで、支える側のマインドセットを中心に述べてきました。支えられる側のマインドセットは、支える側の裏返しと考えることができます。
・あなたは私の声に耳を傾け、受け止めようとしている。
・あなたは私の悲しみや不安や戸惑いに心を砕き、共に歩こうとしている。
・あなたは私に贈り物を届けようとしている。
・あなたと私が出会うことで、素敵な何かが生まれるかもしれない。
 このような他者への信頼、関係性への信頼が、支えらる側に必要なマインドセットだろうと思います。

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