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planetarian_t
【詩】炬燵という小宇宙
薔薇の柄の古い珈琲カップにウィスキイをそそぎ熱い湯で解く。
ベッドに入る1時間ほど前。
少しずつゆっくり飲む。
炬燵に足を入れてテレビニュースをぼんやりと見ている。
日銀の利上げ。国会論戦。投資詐欺。etc.
野球はシーズンオフである。試合結果の報告はない。
でも、
俺の人生もいよいよ9回裏を迎えようとしているあたりかな。
さしずめ、後攻め7対1の負け試合。満塁ホームランが一発出ても逆転は無理。打順も悪い。観客も既に席を立ち始めている。
そういうものさ。
So it goes.
* *
私は今、炬燵という小宇宙にいるのです。
この小さな小さな青い惑星の上でほんの束の間を、我が世の春と浮かれている者たち。他方、臥薪嘗胆を期している者たち。
愚か者たちよ。
人生には勝ったも負けたもないのだ。
そんな簡単なこともわからないのかい?
浮き世の隅にある陋屋の炬燵。
小宇宙。
眠気の波が脳の岸辺にひたひたと寄せてくるのがわかります。心地よい。
小指ほどの大きさの海馬から広がる私の記憶には、遠くアンドロメダ銀河が渦巻いている。黄金の芯を持つ白銀の円環が闇に浮かんでいる。
アンドロメダ。一兆個の輝く星の群れよ。
冬の夜、私は一人、炬燵にあたりながら宇宙に解けてゆくのです。
限りない暗黒の空間に無数の星がランダムに散りばめられている宇宙に。
ウィスキイが解けた珈琲カップの中の湯が次第に冷めてゆく時間で。
* *
(反歌めいた俳句二句)
うたた寝も浮き世の隅の炬燵かな
冬籠りアンドロメダの渦想ふ