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桐島聡と東アジア反日武装戦線 ー『桐島聡、逃げる』と『反日革命宣言』


1.『桐島聡、逃げる』

最近『桐島聡、逃げる』という謎の本を読んだ。

謎の本

東アジア反日武装戦線という極左組織の一員で、連続爆弾テロの件で指名手配されたものの、死の直前まで逃げ切った桐島聡の生涯を描いたノンフィクション(?)っぽい本だった。

誤植が鬼のように多く、前後の記述に矛盾があるように思える箇所が多々あったので(後述)、どこまで事実なのか(どこからがフィクションなのか)がよく分からないが、「60年代~70年代に青春時代を送った革命青年の生活史」を描いた本として、あるいは「その時代の東京の一風景」を描いた本として読むと興味深い面もあった。

【他セクトとの違い】

東アジア反日武装戦線が他の左翼セクトと違う点として、「党派的な結束がなく、ある種自由参加で(ゆるく)つながる組織形態だった」と書かれていた。
相互のプライバシーに踏み込まないという科条(42)があったらしく、ある種サークル的だったのかもしれない(他党派が「来ないものまでオルグし、去る者は殲滅するまで追う」のとは対照的だ)。

桐島自体も組織に積極的に関わったというよりは、巻き込まれた形らしい(14)ので、まあ今でいうと闇バイトにハマったのに近いのかもしれない。

独自の社会正義に対する問題意識は持っていたものの、組織にどっぷりcommitしていたわけではないので公安から監視対象には上がっておらず、プロファイルはないに等しいのも、その後逃げ切れた要因のよう。

「実は桐島は明治学院大学時代にTHE ALFEEにニアミスしていたのでは」という説が一番面白かった。

【記述に矛盾があるように思える箇所】

※僕の読み間違いもあるとは思うものの。。
①桐島は全国指名手配犯なのだ(61)桐島の顔は全国の交番に張り出されている(63)
→ポスター掲示は90年代なので、片桐に匿われていた時代(70年代末~80年代頭)と時系列が合わない
②桐島は逃亡中、こんななんでもない夜を切なく思い出したという(106)
→誰に聞いたのか(笑)、桐島本人?
③バイトだってやってたわけじゃないしね(205)
→福山通運のバイトしてる、って書いてるじゃん(192)

2.『反日革命宣言』

その桐島も所属していた『東アジア反日武装戦線』は、70年に三菱重工や鹿島建設といった大企業をターゲットに「連続爆弾テロ」を行ったことで知られる、新左翼(極左)の一派。狼、大地の牙、サソリという3組織で構成されていたらしい。

『腹腹時計』が彼らの著作としては有名だと思うが図書館にはなかった。ただ『反日革命宣言 東アジア反日武装戦線の戦闘史』は図書館に普通に入っていたので読んでみた
(こういった「反体制組織」の資料は、図書館として基本収集することにしているのだろうか?昔『絶歌』の件で問題になっていたような気がするが、個人的には基本どんな本でも収集はしておいた方が良い気がするけど。貸出可能にするかはさておき。)

図書館で借りれます

【『反日革命宣言』】

最近は、民主主義のvoiceへの無力感からか、武力(直接行動)が再評価されつつあるような気がするので(安倍首相暗殺の件とか)、「反日武装闘争」を根本理念にして活動していた彼らの著作を批判的に読むことは、武力(直接行動)の可能性と限界を考える上で多少益になるかもしれない。。。。

また現代において「反日」なる概念は、韓国や中国といった特定アジア諸国との結びつきが強いが(外からの反日)、東アジア反日武装戦線のメンバーは特に在日韓国人・在日中国人で構成されていたわけではないらしい。
「日本人による(内部からの)反日勢力」は、右翼によるパラノイア的陰謀論で実態がないことがほとんどだが、ホンマに存在したバリバリの国産反日組織について知ることは、愛国者であろうが非国民であろうが有益かもしれない。。。

(正直興味本位が一番大きいのだが。。)

本の構成は、「Ⅰ反日思想の根拠」で今までの組織の経歴と基本的な考え方を説明し、「Ⅱ各企業の侵略反革命史」で「悪しき日帝企業」の侵略の歴史を描く。個人的には、「Ⅲ資料」の「虹作戦」の副題のヤバさが目を引いた。

虹作戦 アジア人民の歴史的な憎悪と怨念は、私たち日帝本国人に、まず△△〇〇〇〇をこそ××××せよと要求している

もちろん本当は伏字になっていない

Ⅰ 反日思想の根拠
 第一章 反日兵士の原基形成
 第二章 ”狼”部隊の前史
 第三章 三部隊による日帝中枢企業爆破攻撃
 第四章 五・一九弾圧そして反撃
 第五章 KF部隊(準)の反日思想
Ⅱ 各企業の侵略反革命史
Ⅲ 資料 

目次

【なぜ反日か】

「革命を行う上で、なぜ反日武装闘争なのか」について、本の中で説明されていたのだが、正直内在的にはうまく理解できなかった。

つまりこの本によると、なぜ反日なのかと言えば、、、、、
①被植民地国の革命闘争への「呼応合流」のため
 ⇒簡単に言うと「僕も反省するから仲間に入れてよ」的な感じ?
②日本人としての歴史的現在的加害性を主体的に否定し、真の革命的自己を形成する為の弁証法的運動が「反日」
 ⇒。。。。

結局外在的に理解しようとするならば、「革命主体の形成をどのように行うのか」という観点から他党派との差異化のために、東アジア反日武装戦線は「方法的に」反日思想を採用しているという感じがした。結局この時代もすでに「差異化」の時代の走りだったのだろう。

つまり既存のマルクス主義諸派は、「被害者意識からの革命主体形成」を行っている。つまり、プロレタリアートは自分の生活の中の困りごと(貧困とか)から出発し、それを足掛かりにすることで、社会問題全体に対して批判的視座を得た「革命戦士」へと成長する、という図式である。
またこの図式は、「悪者は搾取する側の資本家、搾取される側の労働者は良い者」という強固な善悪の図式を構成することができ、自分を「良い者」におけるという点で安心感があるので、広がりやすいだろうな、と思う。

逆に東アジア反日武装戦線は、「加害者存在としての自己否定」から出発し、革命主体を形成する。結局資本家であろうと労働者であろうと、日本人である時点で加害者だ、という潔癖な感じ。のちのメンズリブとかにも継承されている考え方だと思う
(「有害な男らしさ」を自覚しそれを自己批判することが男には必要だ、という文言。。。)
これはこれで、「自分たちだけが(身を削って)正しいことをしているのだ」というヒロイスティックな陶酔によって個人としてはドライブされるとは思うが、なかなかそれを集団に拡大するのはえげつないなぁ、とは思う。

【なぜ武装か】

正直「なぜ武装か」の方がまだ理解しやすい気がする
つまりこの本によると、東アジア反日武装戦線が「武力」に力点を置く理由は、、、、、
①待機主義ではなく攻撃型革命論の立場を取り、平時において武装により革命情勢を主体的に作り出すため
 ⇒簡単に言うと「待ってるだけじゃだめだ」なのだろうが、はた迷惑な話だ。。。
②国家権力とは別個の原理の権力を自力で作り出すことが必要だと考えているから。その具体的要素としての「武力」。権力闘争である限り武力は避けられない。
 ⇒まあこれは、実践に移す移さないはさておき、比較的よく言われていることのような気がする。「暴力を国家権力の独占から取り戻さなければならない」という理論。

【まとめ】

内容というよりも、60-70年代的な時代がかった大げさな物言いの文章はやはりレトロ感がある。
腹腹時計は国立国会図書館にあるようだが、一般人でも閲覧できるのだろうか(閲覧者は漏れなく公安にマークされます、とかだったら面白いが、そこまで公安も暇ではないだろう)。

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