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本雑綱目 34 リンスホーデン 東方案内記 大航海時代叢書 1期8

これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
(自炊蔵書が4500冊超えたので約5000冊に変更しました。)

今回はリンスホーデン著 大航海時代叢書 1期8 『東方案内記』です。
ISBN-13は978-4000085083。
NDC分類では歴史>アジアに分類しています。
このシリーズは大航海時代の本や書簡をまとめ直したシリーズで、外函がパカッと割れる好印象(普通は試したりはしない)。

1.読前印象
 リンスホーデンの記した東方案内記の訳本なのだけれど、残念ながらこの人も書物も知らない。キリスト教関係だと案内記という名前を使わない気がするから(そもそも訳の問題かもしれないけれど)、探検家なのかなと思う。

2.目次と前書きチェック
 冒頭の肖像画ではザビエルを想起するような大きな襟巻きをしているので、大航海時代の人だね。前書きはいくつかのパートに別れるが、その解説部分だけで30頁ほどある。これはもう本文と言って大差ないのでは。
 目次はほとんど解説の『東方案内記』と、『ヤン・ハイヘン。ファン・リンスホーテンの東方すなわちポルトガル領インディエへの旅行案内記と、ヴォワイヤージュすなわち航海』からなる1章3~20頁ほどの小さく区切られた旅のエッセイからなっている。
 東方案内記の解説、旅行案内記の26章『ヤパン島について』、33章『ゴアに居住する異教徒のインディエ人および外国人について』、75章『パロ・デ・コブラすなわち蛇木について』について読むことにする。ざっとみると、主にインドについての人文や風物、交易品についての記載も多そうだ。
 はりきって読んでみよう~。

3.中身
『解説』について。
 大航海に出遅れたオランダを取り巻く当時の情勢や、若きリンスホーデンのインド滞在と帰国した後の暮らしやその生涯等について記載されている。当時のインドにおけるポルトガルの堕落っぷりやら今から考えれば無謀としか思えない北方航路の開拓と失敗など興味深い記述が見られるが、背景知識として抑えるのはともかく、この部分自体は旅の記録自体ではないので記述内容としての面白さはない。
『ヤパン島について』について。
 この記述は伝聞のような気はするけれど、日本人に対して好意的に記載されている。ところどころ、例えばハラキリについて『それは主君を満足させ、駐禁をはげむためにはおのれの生命をいかに軽視しているかという真心をそれによって示さんとの主君への愛情の発露なのである』などのシグルイ的記載や、月代について『かれらは頭髪のないのを一つの美としており、ひじょうな緊密さをもってそれを抜き取り、てっぺんに一房だけ残してゆえている』と今はあまり一般的ではない習俗の解釈をしている。
 最も興味深いのが中国と日本の古代の関係で、日本人は中国から追い出された人たちで、そのために日本の海賊が中国近海を荒らしていることになっている。こういう日本人と異なる認識は事実と異なっていても彼らの中では真実なわけで、この時代の東南アジア情勢を書きたい身としてはとても役に立つ。あと、当時のイエズス会のムーブの欧州人からの視点はとても貴重。そして欧州には全くない習慣なのに冷静に評価しているところが興味深い。
『ゴアに居住する異教徒のインディエ人および外国人について』について。
 マホメット教(イスラム教)が異教に分類されずにヒンドゥー教が異教に分類されている。インドはヒンドゥー教という頭があったから意外だったのだけど、よく考えればこのころのインド、つまりムガル帝国はイスラム国家だったのを思い出す。インドあたりの歴史ってあんまり良く知らないな。
 この頃はキリスト教への改宗が大分進んでいたようだが、現地民の生活は以前とさほどかわらず、そのためか異教徒かそうでないかによって身分が違ったりはしないようだ。キリスト教は最初は土着の民俗に混ぜて布教するせいもあるだろうし、おそらく宗教より確立していた強固な身分固定の方が重要であると認識されていたことが原因と思われる。もともとインドは土着の宗教は多い。
 現在もあるのかどうかはわからないが、当時のインドの宗教的風習などが記載あり、特にパゴーデの前での婚姻の風習は現代人にとってなかなか刺激的。
『パロ・デ・コブラすなわち蛇木について』について。
 蛇木というのはセイロン島に自生する低木で、その根はヘビ毒に効くそうだ。白イタチが蛇と戦い噛まれたときにこの根を食べていたことから薬性が発見されたという。このように西欧にない物品の紹介がされている。博物学感。
 全体として、大航海時代当時の文化とか民俗といった面でとても参考になり、また知識的にも面白い本だと思う。ただ、様々な記述が各章に横断的に記載されているため、ピンポイントに情報に行き着くには少しむずかしいけれど、大航海時代あたりのインドを書くなら是非読むべきと思う(いるのか、そんな人)。

4.結び
 著者にとって極めて異文化のはずだが、偏見を持たず淡々と見聞きした情報を記載しているところがとても好感触。この姿勢だからこそ当時の多くのオランダ人が読み、世界に旅立ったんだろう。常識というものは常に移り変わることが実感できるとても尊い本。
 次回は黒田日出男著『謎解き 洛中洛外図』です。
 ではまた明日! 多分!

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