さよなら さんかく
大人数で図形を作るのが得意な三角形がいれば
あまりそういうのが得意じゃない三角形もいる。
中学校に入ってすぐ、
葱の三角と麦茶の三角は出会った。
最初は友達の友達で知り合った気がする。
いつ連絡先を交換したとか
いつから2人で学校に行くようになったとか
そういうことは全然覚えていない。
でも
いつのまにか2人で早い時間に電車で待ち合わせて、一緒に登校するようになって
葱が入院したら麦茶は時間を見つけてギリギリまで病院に居座って
2人でいっぱいバカやった。
バカというのも、
大久野島でウサギと遊ぼうと、ニンジンを5本買って持って行った。でも3本は余らせたとか、
部活で山に登って蜘蛛の巣つけてどろんこになって帰って、洗うのがめちゃめちゃ大変だったとか。
でもそれがぜんぶぜんぶ楽しかった。
ずーっといっしょだった。
どうしてここまでしてくれるのかわからなかった。
でも、だからこそ時々不安になった。
「どうして一緒にいてくれるんだろう」
「いつか麦茶に嫌われてしまうかもしれない」と。
ずっと一緒にいるからこそ、別れが怖かった。
ある日、葱の見舞いに来た麦茶に聞いた。
「どうして友達でいてくれるのか」
「葱のことをどう思っているのか」
ちょっと考えて麦茶は言った。
「幸せに死んでほしい。」
「もう大変なの知ってるんだよ。幸せに生きてほしいとか無責任なこと言えない。最期まで責任持ちたい。」
泣いた。
麦茶の前で涙を見せるのはちょっと悔しかったけど。
葱はバカだから、麦茶に言葉でどうやって気持ちを表したらいいかわからない。
麦茶の言葉を借りるなら、麦茶にも幸せに死んでほしい。
そして、麦茶がいちばん好きな空の色に塗っておくから、葱は麦茶が死ぬちょっと前に死にたい。
だから棺桶には色鉛筆を入れてほしい。
去年の4月、三角と三角はバラバラになった。
お互いが目指すもののために、必要な別れだった。
そのために物理的な距離は離れてしまったかもしれないけど、
むしろ心の距離は縮まったんじゃないかと思う。
葱の三角と、麦茶の三角は、2人で四角になるのかもしれない。
さよなら さんかく
またきて しかく
お互いを確認するかのように、会っている時間は濃く、深い。
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