ヤギのいる病院
あついなか、三角屋根で涼んでいるヤギ二匹。二匹? 二頭? ヒツジみたいなもんだから、数えかたは二匹だろうか。つぶらな瞳がかわいいしろいヤギさんたち。ヤギを数えて眠ってもいいと思えるあいらしさ。某病院の庭に、夏のあいだだけ飼われているようなのでした。
そう。お盆に手術をしました。八月十四日。我が妹の誕生日です。おめでたい日にわたくしは手術。歯が欠けたことでレントゲンをとり、偶然みつかった歯茎の膿疱の手術です。のうほう? ナニソレ? 作家を名乗っている身ではあるのですが、言葉をよく知らない。それでも作家といいはるけどもな。入院までのステップでだいぶ知識が増えましたよ。膿疱はうみの袋。拇印はおやゆびのはんこ。言葉だけじゃなく、歯のいろいろ。唾液のでるところ。唾液が多くでるのはとてもいいこと。神経のつながり。骨の太さ。ひとつの歯のかたち。ヤギもググったらこたえはでた。親は二頭で子どもは二匹。ヤギの数えかた。
やたら感動したりおちこんだり、過敏になったりして手術の日をむかえた。先生は悪性のものじゃないから心配ないよといってくれた。だから発見された時期より半年ほど経っても、膿疱のおおきくなるスピードはゆっくりでいてくれたようだった。
歯茎というよりは実質あごのほうに到達していたようで、手術はおおがかりなものとなった。はじめての全身麻酔。完全に意識がなくなるから大丈夫、だった。術後、やっぱり記憶はない。お空のうえにでもいって遊んでいたんじゃないかと思う。名前を呼ばれ続けてようやく起きる。この感覚には覚えがある。なんせ何度か死にかけている。やっぱりわたし、また死んだんだなと思った。とてもポジティブに、死んだのだ。
しんどいのは術後だった。貧血を起こして倒れた。よわ。そういえばわたし、それほど強くないんだわ。強がってた時期もあったけれど、折れそうなくらい貧弱だった。認めよう。認めてしまえば楽である。点滴ははずせず、退院は一日のび、快適な空間で過ごさせてもらった。外はあつい。茹であがってしまうくらいに。ヤギだってひかげに避難して休んでいる。全くもう、あいくるしくてたまらない。戻ってこられてよかった、と思った。
そしてヤギ二匹にみおくられ、わたくしは五日ほどで無事に退院したのでした。あづい。故郷から遠く離れた土地だから、頼る者もおらず、自力で帰りましたよ。めでたしめでたし。