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文学。多様性とあいすること。

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短編から中編小説を公開。
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#ネムキリスペクト

勘違いの仕組み(掌小説)

勘違いの仕組み(掌小説)

 光がみえる。よく目を凝らすと、細い糸が垂れ下がっている。一面は闇。ぼんやりと、その光は浮きあがっていて、ぼくのこころを照らしている。細い糸の先には、みえはしないけれど脊髄。中枢から中枢をたどり、ぼくは呼吸をする。深く、長く。するとさっきまでビリビリしていたからだが楽になり、ようやく、歩きだせる。深く、長く。呼吸をする。光から指令を受けて、ぼくはぼくの生命を感じる。それがぼくの人間のイメージ。から

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きっと太陽でいたかった(短編小説)

きっと太陽でいたかった(短編小説)

「すごく綺麗なんだ」
 なにが?
 ひょんなことから仲よくなったクラスメイトの、脈絡のない話におれは問う。仲よく、なったのかは正直わからないが、客観的にはそうみえるらしい。高梨とおれは、窓辺でひとり本を読む陰キャと教室の中心でバカ騒ぎする陽キャというちぐはぐ具合なのだが、確実に距離は近づいた。ここ数日、一番連んでいるのはこいつなのだ。開放された屋上はこいつの名のとおり快晴。退屈なほど、のどかだ。

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となりの鼓動を抱きしめる

となりの鼓動を抱きしめる

 ぼくたちは歩いていました。細く、長い一本道を歩いていました。周りの景色はみえません。遠くもみえません。どこに続いているのかわからないのです。懐中電灯が手もとにありましたが、壊れてしまっているようでつけることができません。どうしようかとぼくたちは迷いましたが、この道を進むことに決めました。なにもみえず、そもそも道なのかもわからない、得体の知れないこの先を、ぼくたちは進むことに決めました。五感はとっ

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