【作品紹介】草履に蛙
新年早々に完成したのは、これまで幾度となく彫ってきた「 草履に蛙」。
この古典的題材についての詳細な話は、過去記事(本稿末尾にリンク有)に譲らせて頂くことにして、ここでは本作ならではの部分について、淡く触れさせて頂きたいと考えています。
お時間の許す方は、どうぞお付き合いくださいませ。
草履に蛙
人の親になって以降、自分の身上よりも若人の平穏無事を願うようになりました。それは、日常生活に因らず、作品のテーマやモチーフを決める時にも影響しているようで、折に触れて「草履に蛙」を彫りたくなってしまう理由もまた、そこに在るような気がしています。
本作では、これまでの主役(ヒキガエル)ではなく、トノサマガエルを草履の上に載せてみました。
ホッペを命一杯に膨らませているトノサマガエルは、草履の踵の方を向いて鳴いています。自分の戻るべき場所、或いは、無事を祈る家族へ向けて、自らの無事を知らせているかの様です。
とかく、子ども達ってぇのは、一旦外に出てしまえば鉄砲玉。親の心配なんぞ、どこ吹く風。(過去の自分を省みれば何も言えない。)
世間様では「音沙汰ないのは元気な証拠」とは言うけれど・・・。
病気していないか?
事故に巻き込まれたりしていないか?
仕事や勉強に支障をきたしていないか?
金銭や人間関係のトラブルを抱えていないか?
それはもう数え上げたら切りがないと。
子どもが大きくなれば、心配事が減るものと想像していましたが、そんなことは無いのですね(要するに期待値以下)。自分の両親もそうだったのかと思うと、反省猿の如く頭を垂れるしかありません。
さてと、数多の親が抱える心配事や願いはこの位にして、最後に少しだけ本作について触れさせて頂きましょう。
今回、殊更に力を入れたのは、本作の中では欠かせないテーマ「旅・人生」を表す「草履」でした。
私にとって「草履」は、彫る楽しみを堪能できるモチーフになっています。しかし、大胆かつ繊細な表現が求められることから、木目が詰まっていて硬く、油分による粘りがある材料が必須条件になります。けれども、そのような筋の良い材料にあたることは稀・・・。
だから、黄楊の原木から根付用に小さく切り分けた際、「草履に蛙」が彫れそうな目が詰まった硬い部位を見つけると、ほんの少し高揚感を覚えてしまうのです。そして、その小さな木片に「お前さん、草履になってくれるかえ?」と声をかけてから彫り始めると・・・。
といった具合に、一筋縄ではいかない材料選びですが、こうした課題や悩みは、何も彫刻に限ったことではありません。仕事や趣味を問わず、万事が万事、思い通りにいかないことの方が多いものです。
” それら ” も含めて・・・否、” それをこそ ” が「人生の愉楽と充実の核」になっているという確信を持ち始めている伝吉小父でした。
作品データ
【使用材料】
本体:黄楊(御蔵島産)
他の素材:水牛の角(トノサマガエルの目)
仕上げ材:染料(ヤシャブシ)、イボタ蝋
【サイズ・長さ】 ※最大部分で計測した凡その寸法
本体サイズ:長辺 45㎜ × 短辺 28㎜ × 高さ(厚)24.5㎜
※イボタ蝋:イボタカイガラムシが分泌する蝋物質を精製したもの
もし、興味を持たれた方は、Creema の拙ショップを覗いて下さいませ。
「草履に蛙」の過去記事はこちら
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