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狂言の演目として知られる『釣狐』。 『猿に始まり 狐に終わる』と云われる能狂言の世界にあって、この『釣狐』もまた演者の技量を厳しく問われる演目になっているとのこと。 此度は、この演目の主人公『白蔵主』をモチーフとして製作しました。 念のため『釣狐』の概要を簡単にご紹介させて頂きましょう。 猟師に大勢の仲間を狩られてしまった老狐が、狐釣りを止めさせるために、猟師の伯父で僧侶をしていた白蔵主に化けて、猟師の元を訪ねます。 老狐が化けた白蔵主は、狐が稲荷神であるこ
待望の秋。 秋と言えば、人それぞれの「〇〇の秋」があると思います。けれども、古より四季を愛でてきた日本人の意識の中に組み込まれている「秋」は、恐らく「実りの秋」ではないでしょうか。 此度は、そんな秋の実りを象徴する「栗」を根付に仕立てました。 栗根付に込められてきた縁起(勝栗:武運長久)については、折に触れて記してきましたが、今作に関しては、縁起を担ぐことのみならず、生き辛い時代を生きる人々へのメッセージを込めながら彫り上げました。 それでは、お時間の許す方はお付
三陸地方の食文化や慣習に根差した根付作品「 陸前國シリーズ 」の 第3弾となる 陸前國 大蛸(りくぜんのくに おおだこ)が完成したので、遅ればせながらお披露目させて頂きます。 § 三陸沿岸は水蛸の産地 本作のモデルは、三陸の海坊主 大蛸です。 三陸沿岸で水揚げされる蛸は、主にマダコとミズダコの2種類が挙げられますが、ご存知の通り「マダコといえば明石」のイメージが強いですよね。さればこそ、三陸の海ならではの蛸としてミズダコをモデルにしたというわけです。 三陸沿岸で美味
新年早々に完成したのは、これまで幾度となく彫ってきた「 草履に蛙」。 この古典的題材についての詳細な話は、過去記事(本稿末尾にリンク有)に譲らせて頂くことにして、ここでは本作ならではの部分について、淡く触れさせて頂きたいと考えています。 お時間の許す方は、どうぞお付き合いくださいませ。 草履に蛙 人の親になって以降、自分の身上よりも若人の平穏無事を願うようになりました。それは、日常生活に因らず、作品のテーマやモチーフを決める時にも影響しているようで、折に触れて「草履
新年 明けまして おめでとうございます。 今年も宜しくお願い申し上げます。 稀有で酔狂で賢明なる読者の皆様の健勝と平穏無事を祈念しております。 達磨禅師と言えば「面壁九年」。 「面壁九年」とは、一般的に「物事を忍耐強くやり遂げること」と解釈されているようですが、禅師ご自身は「壁を睨んでいるだけでは、壁に穴を穿つことはできない。」と悟ったとか、悟らなかったとか。 娯楽性の高い時代小説を多く発表した山本周五郎もまた、「面壁九年」をモチーフに「松風の門」を紡ぎ出して
先月下旬には完成していた 瓦に蛙。 去る「災厄を喰らう」という記事で取り上げていた根付ですが、ようやく首尾が整ったので御紹介させて頂きます。 瓦に蛙 軒瓦の上に大きなヒキガエルが一匹。まるで門番のような佇まいです。 この根付の名前は「瓦に蛙」。 これもまた「丸鼠」や「草履に蛙」と同じく古典的な題材です。 1:小さな命に寄せて 作品紹介の前に、少しだけ余談を綴らせて頂きます。 此度は、穏やかな心持ちで製作を続けることが出来たように思います。それはやはり、カエル
古より、勇壮で勢いの良さや雄々しい姿、武運長久を表す言葉として、昇龍(しょうりゅう・のぼりりゅう)・昇鯉(しょうり・のぼりこい)といった言葉が使われてきました。 本作では、それらの例にあやかるべく、強かさと生命力の象徴として鰻に出番を請うことにしました。 それも、いつもの根付ではなくブローチとしてです。 とかく、ウナギの生命力は侮れません。 それは皆さんもよくよくご存知のことと思います。古来より「精がつく食べ物」として知られていますよね。殊に、川の産物に限って言え
ようやく完成した 丸鼠。 大人の「夏休みの宿題」といったところでしょうか。ぎりぎりセーフのタイミングで提出し終えたような心持ちでおります。 丸鼠 丸鼠 は、古典的な題材として数多の先達によって練られ、そして育てられてきました。それ故に、優れたお手本も多く、良い意味でも悪い意味でも影響を受けやすい題材と言えるでしょう。 僕自身は、そうした先達の影響から適度な距離感を保ちつつも、根付の「掌の小宇宙」「触れることができるアート」というアイデンティティーを学ぶための課題と
ようやく仕上がった拙作「普請職人懐古百景 / 漆喰塗り」に絡めて、とある新築住宅の現場にまつわる話を綴らせて頂きます。 此度も相変わらずの長文駄文ではありますが、ご都合に合わせて、少しづつ読み進めて頂ければ幸いです。 左官職の傍輩 東京の建設会社で中高層の建築物にばかり関わってきた僕は、様々な種類の木造建築物を広く学ぶべく、長野県の建設会社に転職した。 そんな僕が、初めて漆喰塗りの施工に関わることになった時の話を綴ろうと思う。 1:左官屋の今野社長 僕の務め先に
普請職人懐古百景は、昨今の建築現場では目にする機会が少なくなった情景や、建築人として30余年を過ごしてきた僕が経験した場面を切り取って形にしていくシリーズになります。 その開口一番が、本作「台直し」です。 此度は、僕自身が経験してきた物語にのせて、作品を御紹介させて頂きたいと思います。毎度の如く長い話になりますので、お時間の許す時にでもお付き合い頂ければ幸いです。 台直し「師匠と僕」 鉋は、木材の表面を薄く削り、美しく仕上げるための道具だ。 それ故、鉋の台は使い
夏の風物詩に数えられる「 鮎の友釣り 」。 その時節を迎えると、清き流れの川岸は釣り人の熱気で充満します。そして誰もが、良い流れをものにして多くの鮎を釣ろうと躍起になるのです。 しかしそれは、川の中も同様で … 。釣り人だけではなく、鮎の方も熾烈な 縄張り争い を繰り広げているのです。 釣る側も釣られる側も、同時に似たような時を過ごしていると云うわけです。ちょっと距離をとって眺めてみると、実に滑稽な話ですよね(笑)。 そんなこんなで、鮎釣りの解禁前に完成できて安堵
三陸の海や山の食文化や慣習に根差した根付作品「 陸前國シリーズ 」の 第2弾となる「 陸前國 春告魚 」が完成したので、お披露目をばさせて頂きましょう。 1:モチーフ 作品のモチーフは、春告魚と呼ばれるメバルです。 本作では、身の厚い良型のメバル(凡そ8~9寸)を、雪氷を敷いた古い竹笊に2尾並べてみました。 場面としては、この十数分後には調理場でおろされて、美味しい煮魚となって僕らの胃袋に入る … といったところでしょうか(涎)。 2:メバルという魚 メバル
ようやく「(仮称)南三陸 海宝参品 」改め「 陸前國 海宝參品 」が完成。豊穣の海で育った魚介類が産物となる場面を彫ってみました。 本作の主役は 良型のカレイ 。そして脇を固めるのは、珍味の誉れ高き ホヤ と、万能の食材 ホタテ貝 です。彼らは、三陸沿岸の海域を代表する海産物でもあります。(そして何より、僕の好物だったりして … 。) 1:根付で記録する試み 根付に取り組むようになってから、早々に自分ならではのテーマを見つけたいと考えていました。しかし、それは容易で
早速、自己脳内整理用の記録を綴って参りましょう。 なお、小見出しの番号は、#前編 からの通し番になります。 4:スケールの謎 #前編 で例に挙げた 正直 が彫り上げた ガマガエル(下画像)は、裏返しになった草履と比較すると頗る大きなカエルであることが分かります。 逆に、ガマガエル の全長(吻端から総排出口までの長さ)を、その種の最大サイズ 16㎝ に仮定した場合、この草履は 20㎝程度 になるわけです。 となると、何か微妙な感じがしてきませんか? そう、