シン映画日記『Sin Clock』
MOVIX三郷にて窪塚洋介主演映画『Sin Clock』を見てきた。
3人のタクシードライバー達が、偶然知り得た大物国会議員所有の絵画を盗み、半グレ組織から大金をせしめる計画を立て、実行するクライム・サスペンス!
『タクシードライバー』or『ナイト・オン・ザ・プラネット』とコーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』or『ファーゴ』が邂逅したようなスリリングなクライム・サスペンスに、現代ニッポンの鬱屈・屈折した男たちの空気・生き様が叩き込まれている。
主人公の高木シンジは商社のサラリーマンをしていたがあるトラブルから責任を負わされてクビになり、妻と離婚しタクシードライバーに転職する。ある日、泥酔した初老の男性とホステスを降ろしたら、忘れ物として後部座席から男性の名刺を見つけ、名刺から大物国会議員の大谷と分かる。大谷を乗せていた時に大谷がホステスと話にあげていた絵画は元教師の同僚・番場ダイゴによれば数億円もの価値を持つ幻の絵画らしく、これに元自衛官の同僚・坂口キョウがある作戦を思いつき、3人でこの作戦を実行することに。
とにかく、背景にある人物造形がよく出来ている。
主人公・高木シンジの前職からの初心者タクシードライバーとしての日々に抱えている家族の問題と負の連鎖のように出てくるトラブル。
これに作戦に乗る番場ダイゴと坂口キョウの過去とそれぞれの性格と特殊なスキルなどもサラッと挿入し、中盤以降のハラハラドキドキな犯行にもっていく。
出てくる登場人物の7割がタクシードライバーということもあり、タクシー映画としての見応えも十分。
タクシー会社に集う三者三様の過去と性格、風太郎が演じる先輩ドライバーの世良もまた過去があり、先輩格の性格を存分に見せる。
そして、主に高木視点を中心としたタクシードライバーのお仕事の風景は『タクシードライバー』のような哀愁と、『ナイト・オン・ザ・プラネット』や『ちょっと思い出しただけ』でも見られたような運転席と後部座席の狭い空間での格差社会。
その内面には論語の「晏子の御」の御者のようなマインドが薄っすらありながらも、完全に黒子・脇役・空気に徹さなくてはいけない当たり前ながらのリアルで冷たささえある現実。
さらに冒頭シーンや随所で、この作戦に絡む半グレ組織の男ヤスの狂犬じみた言動を挟み込み、よりキナ臭い方向にもっていく。
けど、このヤスのシーンの入れ方が今一つスムーズではなく、ここにこの作品の粗削りさを感じざるを得ない。
正直、三者三様+1、2のタクシードライバーの悲哀のリアリズムで占めて欲しく、それだけやや蛇足気味ではあったが、キナ臭さをよりたしかにする一面ではやむを得ない要素ではある。
中盤以降の実行は8割方予想通りのコーエン兄弟風味のクライム・サスペンスを展開。
しかしながら、実行に使う車がそのままの営業車両で大丈夫かなとも思いながら見ていたが、
三人が決してプロのグループというわけではないんだから、これはこれでリアリズムがある。
着地点がふんわりとはしているが、
カタルシスはあるのでこれはこれでいい気もする。
窪塚洋介の久しぶりの主演とあって本人はもちろん気合い十分だが、
それ以上に坂口キョウ役の葵揚や半グレのヤス役のJin Dogg、先輩の世良役の風太郎、ほぼワンポイントのホステスのユカ役の橋本マナミ、高木の元妻役の田丸麻紀、嫌味な警官役の長田庄平、怪しいブローカー役の藤井誠士にヒットマン役の般若、そして大物国会議員大谷役の螢雪次朗、さらには俳優・役名が分からないあたりでは高木のサラリーマン時代の上司や取引先の広告代理店、通販番組のスタッフ、大谷が使う料亭の女将、高木のタクシーに乗って難癖をつける客たちなど、準主役からワンポイントのサブキャラまでみんなギラギラしていて、映画『Sin Clock』としては良い意味での2010〜20年代の「嫌な国ニッポン」のリアルな空気を演出している。
三者三様で作中の時間まで「3」にこだわり、出来がいい。
韓国ノワールやコーエン兄弟の作品など同種のクライム・サスペンスと列べて細かく精査するとちょっとは穴が見えなくはないけど、今の日本らしい鬱屈した空気は出せていたから、この映画はこの映画で味を出せてたのではないかな、と思えてならない。