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蔵出し映画レビュー『リコリス・ピザ』

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ザ・マスター』のポール・トーマス・アンダーソン監督による1973年のロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーを舞台にした青春映画。これがびっくりするほど1970年代のアメリカの空気がムンムンで、まさしくポール・トーマス・アンダーソン監督が作り上げた『シン・アメリカン・グラフィティ』である!!!!

クーパー・ホフマンが演じる男子高校生のゲイリーにしろイケメンじゃないし、アラナ・ハイムが演じるアラナも美人ではないのに、この二人が織りなすくっついたり、離れたりの大揺れなストーリー、世界観に完全に惹き込まれる。

ゲイリーもアラナもお互い好きなはずなのに直ぐに別の人にアプローチする浮気ぶりと、ウォーターベッドやピンボールマシンなどその当時ヒットしそうなものにやたらと手を出す超野心家なゲイリーの動きに、ベテラン俳優や新進気鋭の政治家など大人の世界に身を委ねるアラナの動向など、予想不能な展開に見る者は引っ張り回されまくり、とにかく飽きない。

その展開の転がり具合はまさしくスーパーボールのように弾けまくり、つかず離れずなゲイリーとアラナの仲も妙な危うさがあるが故に惹かれる。

それとこの映画の最大の魅力は1973年のアメリカの空気感にある。それは音楽、ファッション、小道具のみならず、美術や映像の質までもが1973年的。例えば、新聞の広告に『ディープ・スロート』があったり、オイルショックの影響を見せたり、音楽もジェーム・ズギャングやポール・マッカートニー&ウィングスなどを寄り添うように掛けている。この寄り添うようにかける音楽も『アメリカン・グラフィティ』っぽく、それは比較的夜を駆け巡るエピソードが多いあたりにも伺える。本作に昼間のシーンがいくらかあるのも、かつてのジョージ・ルーカスが監督した『アメリカン・グラフィティ』にはない部分で、だからこそ逆に意識したとも考えられる。

それと、この映画が絶えずテーマにしているのは背伸びした大人の世界観にある。それはゲイリーが高校生なのにファミレスではないレストランに出入りしたり、俳優としたり稼いだり、ベンチャー的にいろんな事業に手を出したりするあたりや、アラナがゲイリーへの当てつけのようにベテラン俳優と仲良くしたり、地元の政治家の手伝いをしたり、あらゆる角度で関わる。そういうちょっと無理して大人の世界への首突っ込み感覚も『アメリカン・グラフィティ』のそれと中身は異なれど性質的には似ている。
 

青春映画として極上のクオリティだが、後追いでは音楽や映画からしか見られない、聴けない1973年のアメリカを奥の奥まで見せ、骨の髄まで楽しませてくれる。圧巻の133分はラストからのトワイライトな映像を見せるエンドロールまで目が離せない!

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