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蔵出し映画レビュー『冬薔薇』

奇しくも伊藤健太郎の俳優復帰作となった阪本順治監督・脚本作品『冬薔薇』。事件を起こした伊藤健太郎による犯罪からの人生再生の映画かと思いきや少し違いながらも、小林薫や余貴美子といったベテラン勢と伊藤健太郎や永山絢斗らの若手勢によることなる世代のアンサンブルを掛け合せた渋い味わいのドラマを見せる。

冒頭の作業船内での食事シーンから小林薫、石橋蓮司、伊武雅刀らによるベテランらの味が溢れまくる会話劇が炸裂。伊藤健太郎らの若手の方が主演でありながらも、ベテラン勢の激烈に渋いアンサンブル劇の方が非常に目立つ。これは『大鹿村騒動記』や『一度も撃ってません』の応用で、これらのベテラン俳優らによるアンサンブル劇を使って親子の断絶や切っても切れない縁を描いている。

伊藤健太郎や永山絢斗らも若手は若手のアンサンブル劇が見られる。伊藤健太郎や永山絢斗らの悪たれボンクラのバーや病院での会話や伊藤健太郎が演じる主人公が居酒屋で従兄弟と話すシーンなど、ベテラン勢のアンサンブル劇とは違った若い世代ならではのアンサンブル劇を展開。そこになりすまし詐欺やドラレコ投稿といった現代らしい様子も上手く挿入している。

小林薫による不器用な父親像や余貴美子との夫婦の様子も悪くない。石橋蓮司が小林薫が作る賄に難癖つけたり、伊藤健太郎をたしなめるシーンなど虚実入り交じり、『大鹿村騒動記』や『一度も撃ってません』の阪本順治監督らしさが随所で伺える。このベテラン勢と若手勢の違ったドラマの並びの悪さ、居心地の悪さでさえ映画の味わいとも考えられる。この伊藤健太郎の浮きっぷりをどう捉えるかが本作の良し悪しの鍵にもなる。やや地味ではあるが、『大鹿村騒動記』や『一度も撃ってません』が好きなら見てほしい。

 

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