vol.74 手紙の最後に何を書きますか?【手紙の助け舟】
みなさん、ごきげんよう。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
むすびの言葉
手紙を書く時、最後にどんなことをしたためますか。むすびの言葉はとても大事で、最後に何を書くかで手紙全体が引き締まったり、反対に締まりのない手紙になったりします。
三省堂の『手紙の書き方辞典』には、手紙の末文には「要旨のまとめを中心に、自愛を念じたり、迷惑を陳謝したりする」とあります。
要旨のまとめとは「まずは、お礼まで」のような本文を簡単に要約した一言であり、自愛を念じるとは「時節柄ご自愛ください」といった相手の健康を願う言葉です。迷惑の陳謝とは「乱筆乱文申し訳ありません」「長々と書き連ねたことをお詫びします」のような言葉を指します。
個人的にむすびの言葉としておすすめしたいのは、「相手の健康を願う言葉」と「未来につながる言葉」です。この二つのどちらかを書くことで、大抵の手紙はうまくまとまります。
相手の健康を願う言葉
・お体を大切にしてお過ごしください
・お体おいといください
・くれぐれもご自愛ください / ご自愛なさってください
・お体に気をつけてください
・どうぞお元気で(お過ごしください)
未来につながる言葉
・ご縁に感謝しています
・またお目にかかる日を楽しみにしています
・楽しい〇〇になりますように
・そのうち美味しいものでも食べに行きましょう
ところで、フランスの偉大な画家、アンリ・マティスとジョルジュ・ルオーは親友同士で、生涯にわたり手紙を交わしていたそうです。二人の書簡をまとめた本によれば、描くことに行き詰った時、病気になった時、戦争の時にも、手紙を書いてアドバイスをしたり、励まし合ったりしていたようです。私が良いなと思ったのはマティスが好んで使っていたむすびの言葉です。
エレガントな表現だと思いませんか。手紙の末文に握手を送ると書くのはフランスでは常套句なのか、マティス独自の表現なのかは分かりませんが、これは素敵! と思い、時々自分の手紙のむすびの言葉に使わせていただいています。
文学作品の中に出てくる手紙には、真似したい表現や参考になる言い回しがたくさん出てきます。特に海外文学に登場する手紙にはユニークな言い回しが多く、”敬具”や”かしこ”と同じ形式的な言い方だったとしても翻訳された日本語で読むと詩的に感じる場合もあります。
これからの秋の夜長、小説を読んで手紙が出てきたら、ぜひむすびの言葉に注目してみてください。そして、使えそうな表現があればメモしておいて、いざというときに書いてみると良いですよ。むすびの言葉ひとつでにわかにエレガントな手紙に変身するかもしれませんから。
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