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10倍成長のために、80%の仕事を捨てろ

10倍成長 2倍より10倍が簡単だ


Ratingー評価ー

★★★★☆

  • 仕事に対するマインドセットを大幅に変革する可能性を秘めた本だが、やや冗長のため読み飛ばしながらページをめくるのがおすすめだ。

Appetiserー前菜ー

  • 私は「10X」という言葉が好きだ。スタートアップにかかわる仕事をしている人であれば、誰もが惹かれる言葉なのではないだろうか。ちなみに、ここでいう「10X」とは「Stailer」を展開している10Xではない。

  • 簡単に言えば「10倍成長」すること。線形的に2倍成長するのではなく、非線形的に「めっちゃ成長」することを指す。成長って、素敵だ。「楽しい縮小社会」とも言われる日本だが、私は嫌だ。成長したいし、社会を拡大させたい。縮小均衡なんて、まっぴらごめんだ。

  • そんな私がAmazonをサーフィンしていたとき「10X」と題された書籍を目にしたら、ポチらないはずがない。まんまと著者やエディターたちの術中にハマったわけだ。

  • したがって、本書は先入観が全くない状態で読み始めた。ただただ、10Xという言葉のシャワーを浴び続ければ満足するだろうと思っていた。

Mainーメインー

  • 本書の主張を要約するなら「10倍成長を実現するなら、80%の仕事を捨てろ」となる。以下、少し本書から内容をかいつまみながら説明しよう。

  • ビジネス用語で「パレートの法則」と呼ばれる経験則がある。イタリアの経済学者、ビルフレッド・パレートが提唱した法則だ。別名、80:20の法則。どういうことか。得られる成果は、20%の仕事から生まれるというものだ。裏を返せば、80%の仕事は成果に直結しない。

最良の結果の80%は、注力したことの20%によってもたらされる。[…]つまり膨大な時間とエネルギーをつぎ込んだものは、実際には大きな足かせになっているのだ。

P.56
  • この80%の仕事とは何を指すか。人によって違うだろうが、私なりの解釈は、大きな成果につながらないとわかっていても、義理や人情、組織内の立場・役割から、やらなければならない仕事だ。些細なメールの返信、スケジュール管理もこれにあたる。私にとっては、出勤簿の提出や経費精算もここに入ってしまう。

  • この「無意味」な80%を放り出し、意味のある20%の仕事に全身全霊を捧げようー本書の中の言葉を使うと「唯一無二の能力」を活かすーというのが本書の主張だ。

  • 補足だが、これは組織マネジメントにおける経験則「働き蟻の法則」にも通じるところがある。組織の中で一生懸命に働いているのは2割に過ぎず、6割はそれなりの仕事をこなすだけ、2割はサボるという「2:6:2の法則」のことだ。

  • さて、大企業にお勤めの皆様であればすでにお気づきの通り、起業家でもない限りこの「10倍成長」を実現するのは難しい。なぜなら日本の組織は極めて官僚的で、個々人の社員がやるべきことが決まってしまっているから。柔軟性が低いと言い換えることもできる。働き蟻の法則に照らせば、それはみんなが「6割のアリ(普通のアリ)」になることを求められるということだ。

  • 官僚組織の中においては「無意味な8割」の仕事が「重要」なのだ。それは成果につながるという意味で重要なのではなく、官僚組織を機能するために「重要」というに過ぎない。

  • なんてくだらないのだろう。

  • そんな風に思ったみなさんは、喜んで「レート・バスター(Rate Buster)」になりましょう。

2倍の組織や業界で10倍のマインドセットをもつリンダ[本書に「10倍成長」の例として登場する人物]のような存在を、rate buster[レート・バスター]と呼ぶ。この言葉は工場の生産現場に由来がある。出来高払いの労働者の一人が工場内で確立されている生産基準を上まわる仕事をすると、その高い生産性によって単価(レート)を下げられるか生産量を上げるよう求められるのを恐れるほかの労働者たちのあいだに、強い反発を引き起こす。

P.79
  • レート・バスターになった上で、それを受け入れる文化がある企業であれば、そのままとどまるのが吉。受け入れられないというなら、退職するまで。こちらから願い下げだ。

Dessertーデザートー

  • さて、ここからはメインでご馳走になった法則を応用して、0から組織を作り上げる時に意識すべきことを学んでいく。

  • 1人目、つまりあなた。最初は100%の仕事を自分で引き受ける必要がある。しかしそれでは、いずれ成長に天井がやってくる。そして線形的な成長しかできなくなる。ここでの変数は「時間」ただ一つだ。つまり、働く時間を増やすことでしか成長はできなくなる。これではせっかく事業を立ち上げたのに、面白くない。なにせみんなが狙うべきは10Xなのだから。

    • わかりやすくするために、実数を用いた例を挙げる。あなたが週100時間で100の成果を上げているとしよう。200の成果を生み出すには、週200時間働くしかなくなる。これではスケールしない。

  • 2人目。あなたは「唯一無二の能力」を生かして、20%の仕事に専念できるように80%の仕事を任せることができる人を雇う。これによって、あなたが費やしてきた労働時間の全てを「意味のある20%」に注げるようになったわけだ。ここで注意したいのは、必ず「10倍成長」のマインドを持った人材を採用することだ。「10倍成長」する組織体制を理解してくれる人材でなければ、組織の中で自分がどんな業務を担っているのかを理解できないためだ。

    • 先ほどの例に倣い、実数で計算してみる。あなたが労働していた100時間のうち、80%は「無意味」だったわけだ。

    • *ここで注意したいのは、この「無意味」な仕事には2種類あるということだ。20%の「意味ある」仕事のために必要な仕事(例えばスケジュール調整、メール返信、プレゼン資料作りなど)もあれば、「意味ある」仕事とは関係なく、ただ単に成果に結びついていない仕事(例えば収益が小さい顧客への営業やアフターサービス)もある。ここでは単純化のために、80%の仕事は前者、つまり「必要ではあるものの直接成果に結びつくわけではない仕事」としておく。

    • さて、あなたがアシスタントを雇うと、「意味のある」仕事に注いでいた時間が20時間から100時間に増える。単純計算で、成果は500になる。1人雇い入れるだけで、成果は5倍になる。まさに非線形の成長、10倍成長だ。(10倍ではなく5倍だが…)

  • しかしここで、あなたは成長の天井にぶつかることになる。なぜなら週100時間(しか働けないとすると…)という限界がある中で、20%という「意味のある」仕事に全てを注いでしまったからだ。成果は500が限界なのか。

  • いや、そんなことはない。最初は20%だった「意味のある仕事」が100%になった時、その中でさらに「80:20の法則」が働く。さらに意味のある20%の仕事が顕在化して、残りの80%がそれほどの成果に結びついていないことに気づく。この第二段階になると、第一段階における4%が「もっと意味のある仕事」となることがわかる。このように、事業家の仕事というのは純粋化(Purify)されていく。泥水を濾過して、純水を取り出していく作業に近いだろうか。

  • 3人目。あなたの忠実な2人目のアシスタントも、8割が「無意味」な仕事だと感じるようになる。そこで3人目のアシスタントを雇い入れることで、2人目のアシスタントが「無意味」と感じていた仕事をやってもらう。こうして、あなたも含めて事業にジョインした人から順番にどんどん、仕事が純粋化されていく。

  • さて、この純粋化の作業にはしかしながら、それを押しとどめるような力が発生する。仕事が純粋化されていくと、それを担う人は次第に代替不可能になっていくのだ。つまり仕事が属人化するという現象だ。しかし著者の1人、コーチングの権威でもあるダン・サリヴァンはそのリスクを許容しなさいと説く。

類まれな組織というのは、メンバーの「唯一無二の能力」を引き出し、事実上取り替え不可能なレベルにまで成長させてこそ、実現できる。もし何かが起こってそのメンバーがいなくなれば、代替できる人材はいない。新しく体制をつくり直さなければならない。[…]しかし、これは取るべきリスクなのだ。当人しかできない素晴らしい仕事をする人材がいるというリスクを抱えてこそ、偉大な企業になれると私は考える。起業家による組織が偉大になれる、唯一の道なのだ。

P.324. 正確にはサリヴァン氏の著書『The Self-Managing Company』からの孫引きであることに注意。協調は評者。
  • ここで少し立ち止まって、考えたいことがある。日本の大企業では2〜3年おきにやってくることが通例の「異動」をどう考えるかだ。「10倍成長」のマインドを持つ人材からなる「10倍成長」の企業において、人事異動は悪手に見える。なぜなら構造上、仕事の純粋化が不可能だからだ。(「人」ではなく「役割」のレベルで仕事を純粋化すればいいではないかという異論が出てきそうだ。それは不可能に近い。なぜなら異動してきた人が「10倍成長」のマインドを持った人材ではない可能性があるためだ。思い出してほしい。10倍成長の事業を作るとき、あなたは「10倍成長」のマインドを持った人材を1人ずつ採用したはずだ)。

  • この考察については、また場をあらためて議論したい。ちなみに、私は問答無用の定期的な人事異動には断固反対の立場をとる。

Takeawaysーおみやげー

  • 「売り手」ではなく「買い手」になれ、という主張が印象的だった。これもコーチングの権威、ダン・サリヴァン氏が説くものだ。

”買い手”は明確な基準をもち、自分が何を欲しているのか把握している。その反対が”売り手”で、特定の状況を必要としていて、その状況に持ち込みたいと必死になる。

P.184
  • 単純化してしまえば、自分の交渉力を落とすなということだろうか。

  • さてもう一つ。

中国語に「四両撥千斤」という言葉がある。おおよその意味は「200グラムで500キロの相手を倒す」だ。
唯一無二の能力を極めていくと、力をかけることなく10倍、100倍、1000倍、さらにそれ以上の影響力を発するようになる。

P.337
  • 仕事を純粋化していくと、それだけあなたの仕事にレバレッジがかかるということだ。

  • ちなみにこの印象的な言葉、『太極拳譜』において書かれている。太極拳において、軽い力で強い相手を薙ぎ倒すという意味らしい。


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