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コンパウンド戦略をSaaSスタートアップがとるべきか、という整理メモ

SaaSの「コンパウンドスタートアップ」「コンパウンド戦略」という言葉は今年に入ってすっかり定着して、上場企業の決算説明資料でもちょいちょい目にするようになりました。

いろんなところで見聞きしてると、人によって「コンパウンド」が指している内容がけっこう違うように思うので、整理メモとしてまとめてみました。結論を先に書くと、「SaaSのマルチプロダクト展開は必須だけど、アーリーフェーズのコンパウンド戦略はマジでむずいよ」。

貴山敬 (@tkiyama)


コンパウンド戦略とは

マネーフォワード社の決算説明資料では、コンパウンド戦略を「単⼀のプロダクトやセグメントに限定せず、共通基盤やデータを中⼼に複数のプロダクトを複数のセグメント向けに同時に提供する」と定義しています。

「共通基盤やデータを中心」に、「複数のプロダクト」を、「同時に提供」という3つが大事なポイントです。後述の『マルチプロダクト』が、共通基盤やデータを中心に、同時開発して提供すると『コンパウンド』になる、と言えます。

マネーフォワード社の2024Q2決算説明資料 から

SaaSとマルチプロダクト

創業時にはじめたプロダクトが成功してからその隣接領域に拡大していくのはよくある話で、「マルチプロダクト」と呼ばれることが多いです。

SaaSの売上成長率を維持するためにマルチプロダクトが必要、という経営判断に加えて、顧客課題を解決するためにも必須です。SaaSは顧客の業務プロセスの一部をソフトウェアで置き換えるものなので、必ず隣接領域があり、業務プロセスの一部だけ効率化しても顧客の課題解決が浅くて狭いのです。
つまり、SaaSの成長企業にとって、マルチプロダクト化は必ず通る道になります。

全体最適によって顧客の課題を広く深く解決できる、というのはマネフォのこのスライドがわかりやすい。美しいマルチプロダクト展開。

マネーフォワード社の2024Q2決算説明資料 から

SmartHRのコンパウンド戦略

基礎的な労務管理システムとしてスタートしたSmartHRは、給与という性質上、最新情報がリアルタイムで確実に更新される従業員データベースの確立に成功しました。そのDBを武器に隣接領域を次々と飲み込んでいくという、王者の打ち手。これぞコンパウンド。

SmartHRがARR150億円を突破、のプレスリリースから

Ripplingのコンパウンド戦略

日本で「コンパウンド」という概念が流行ったきっかけはRippling社のこの記事でした。

読めば読むほど、Ripplingというスタートアップの凄まじさがよくわかります。

従業員情報がEmployee Graphに集約され、その上に労務管理/情シス/請求支払などのアプリケーションが動く、という全体像を、創業当初から構想してマルチプロダクトを同時開発した結果、巨大な成功をおさめることとなりました。

Rippling社のコンパウンド戦略をもっと知りたければ2024年8月と2021年12月のこちらの記事を。この数年間、戦略が首尾一貫していることがわかります。

アーリーフェーズでコンパウンド戦略をとるリスクと、とらないリスク

マネーフォワードやSmartHRは基盤となる強烈なデータと顧客の固まりを握っており、一気に市場シェアを拡大させるコンパウンド戦略をとるのは必然といえます。一方で、創業~シリーズAぐらいまでのステージで、Rippling社と同じことをやるのはかなり危ない。求めるヒトとカネの要件がものすごく高い。

まだ何者でもないアーリーフェーズで、未来のプロダクトの絵姿を想像しながら、実際の顧客データも知見も不足してるけど、コアとなるデータ基盤を中心とした全体最適なマルチプロダクト開発計画を組めるプロダクト責任者がまず必須。そして、各プロダクトのPdMとエンジニアとPMMが無尽蔵に必要です。セールスCSマーケの調整も膨大。さらに、この人たちを束ねる組織をどう作るか、という人事戦略がついてくる。

成功確率が極端に低いスタートアップは、創業してから死に向かって走るというゲームをしています。成功できる企業はほんの一握り。単一プロダクトですらPMFが難しいのに、最初からマルチプロダクトを展開するのは難易度が掛け算で膨れ上がってしまう。

加えて、開発コストが重たいしSaaSは先行投資型なので、売上が十分にあがるまでのキャッシュが必要です。創業時からその潤沢なキャッシュを集めるには、なにもない状態でも高いValuationで調達できる必要があります。ごく限られたシリアルアントレプレナーならそれができますが、ほとんどの起業家にとっては選択肢がない。

コンパウンドの難易度、そして逆に初期からコンパウンド戦略をとらないことのリスクは、この記事に詳しい。LayerXの福島さんは、それでもやるのは「初期から複数プロダクトを志向する最大のメリットはそこから生まれる企業文化」を作るため、としています。2022年12月に書かれた記事ですが、その後のLayerXの躍進はみなさんご存知の通り。

その他の参考記事

さいごに

異なる企業とのAPI連携では、ユーザー体験と連携データがどうしても一部毀損してしまいます。顧客はバンドルされたパッケージを求めてる。マルチプロダクトは正しい。一方、どのタイミングでコンパウンド戦略に打って出るかは、社員採用と組織開発、ファイナンスが深く関与する難しい経営判断です。生き残ったものが正しい世界で、弊社含めて、数年後どうなっているかの未来を早く見たい。

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