まちづくりは最高の暇つぶし
島根県の離島にある海士町に出向していた頃、株式会社風と土と(代表:阿部裕志氏)が提供している研修プログラムに参加したことがあります。
本土の港からフェリーで3時間以上かかる離島でありながら、東京に本社がある一部上場企業の社員も研修に参加しており、社員は離島の豊かな自然の中でマインドフルネスを高めるとともに、海士町のまちづくりから、挑戦することや仕事を通して人生を豊かにすることの大切さを学びます。
そのときのエピソードについて紹介させてもらいます。私は、企業の方と海士町役場の職員とのグループワークに参加していたのですが、企業の方は海士町役場の職員に「なぜ、役場職員をはじめとして海士町の人達は、まちづくりに積極的なのですか?」と質問をされました。
これまでの研修の中で、まちづくりの様々な挑戦事例に触れて、率直な質問を役場の職員にぶつけたのだと思います。
余談になりますが、私が文部科学省から海士町役場に出向する際に、当時の復興大臣政務官であった小泉進次郎氏とお話をする機会がありました。小泉議員は海士町のキャッチフレーズである「ないものはない」のポスターを議員会館に掲示するなど、海士町に高い関心を持っています。
その小泉議員に海士町への出向が決まったことをお伝えすると「あの島は本当にすごい。島民全員がまちづくりに関わっている。そんな地域はそれまで見たことがなかった」とおっしゃっていました。
きっと、海士町の研修に参加した企業の方も小泉議員と同じ感想を持ったのだと思います。役場職員だけでなく、商店の店主も農家も民宿の女将もまちづくりに参画している姿は、都会では決して見られない光景です。
研修生からのストレートな質問に、役場職員は「離島なので映画館もショッピングモールもない。やることがない中で、まちづくりはお金も掛からない。やった方が良いことはたくさんあるし、上手くいけばみんなからも感謝される。こんなに良い暇つぶしはない。まちづくりは最高の暇つぶしですから。」と笑いながら答えます。
役場職員としての使命感や離島を思う気持ちも絶対にあるに違いありませんが、離島の謙虚さが表れたそのユニークな返しが私の中でとても印象に残っています。
それと同時に、この言葉にはとても大切なことが含まれていると感じました。それは、自分の意志でまちづくりに楽しんで取り組んでいることです。
もちろん、まちづくりは楽しいことばかりではありませんし、時には苦しいこと、人間関係で上手くいかないこともあります。それでも、根っこのところで楽しんでやろうとする姿勢が海士町のまちづくりの強みであり、魅力だと感じています。
まちづくりの分野を超えて教育の分野でも同じことが言えるのではないでしょうか。
例えば、風と土との研修プログラムでは自分の中にある「will」の部分をとても大切にします。自分は何に挑戦したいのか、社会とどのように関わりたいのか、といった問いを受講者に問いかけます。
一方で、学校教育は「must」に占める割合がどうしても大きくなりがちです。卒業までに履修しなければならないこと、受験のために暗記しなければならないことがたくさんあります。
また、「何ができるようになるか」という「can」の部分も疎かにすることはできません。
しかしながら、これからの時代に大切になってくるのは、「must」や「can」に加えて、生徒の「will」の部分を起点とする学びではないでしょうか。
私は、この「must・can・will」の視点で教育を考えることを、一般財団法人地域・魅力化プラットフォームの代表理事である水谷智之氏から学ばさせてもらいました。
来年度から高校でスタートする「総合的な探究の時間」では、まさに生徒の中にある「will」の部分、やりたいことや挑戦したいことから出発して自らの学びを深めていくことが求められます。
海士町役場職員の「まちづくりは最高の暇つぶし」という言葉に代表されるように、義務感(must)でもなく、できるできない(can)に関係なく、やりたいからやる(will)という気持ちで、まちづくりを楽しんでいるように、学校でも生徒が「探究活動は最高の暇つぶし」と言えるくらいに、生徒のやりたいこと(will)から出発して学びが広がっていく環境を整えていきたいです。
そのためのキーワードが、離島・中山間地域の高校で進められている「学校の魅力化」であり、新学習指導要領が掲げる「社会に開かれた教育課程」なのだと思います。
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