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学校は学校だけで成り立ってはいない

教育委員会というところは、役所の他部局とは大きく違ってその組織定員の大部分を学校の教員が占めています。指導主事とう肩書で行政の仕事を行うのですが、県教育委員会に配属される前に市町村教育委員会や教育事務所での行政を経験して配属される人もいれば、いきなり学校現場から県教育委員会に配属になる人もいます。
私自身、学校の教員から文部科学省に転職したときには、それまでの教員としての経験がまったく役に立たず、仕事の文化やスピードの違いに戸惑い、落ち込む日々の連続でした。

そんなふうに、学校現場から出向してきて教育委員会で活躍された先生の中には、この年度末で再び現場に戻る人もいます。その中の一人が別れの際に話してくれた言葉がとても印象的だったので紹介します。

その先生は「私はこれまで何十年と学校現場で教員をしてきました。今回、初めて教育行政の立場で仕事をさせてもらって、学校は学校だけで成り立ってはいない、教育委員会など色んな人の支えによって学校は成り立っているということがとても良くわかりました」と語ってくれました。
台風や豪雨災害、感染症対応といった非常時への対応、それ以外にも学校で事件事故があったときの教育委員会のバックアップなどを間近に見る中で自然と出てきた言葉なのだろうと思います。

また、別の先生は「これまで学校にいるときに県教委から通知をもらってもその内容だけを見ていました。けれど、その背景にはたくさんの経緯や想いがあることを知ることができました」と感想をくれる人もいました。

まさに「百聞は一見にしかず」だと思います。私も文部科学省に転職して中から見たときに、教師をやっていた頃の文部科学省の印象が180度変わったのを覚えています。

今、教育行政の在り方が問われています。子ども達が抱えている問題の背景が複雑化・多様化し、社会が加速度的に変化していくとともに、情報ネットワークの発達により世界中の情報がリアルタイムに入手できる時代にあって、これまでの中央集権的な行政システムに限界がきているのも事実だからです。

ただ、それでも教育行政の役割というのは、実はとってもシンプルで「学校を元気にすること」であり、そのこと自体は変わっていません。学校を元気にすることとは、教師を元気にすることであり、それによって、子ども達が笑顔になるということに他なりません。それは文部科学省にいても、県教育委員会にいても、海士町役場で教育に関わったときでも変わりありませんでした。

岩手県は東日本大震災津波で学校が壊滅的な打撃を受けたときにも、教育委員会が学校を全面的にバックアップして、子ども達のために全力を尽くして学校再開を実現しました。その記録は『被災の町の学校再開』(岩手復興書店)という本にも詳しく紹介されています。

本書には、小学校も中学校も軒並み水没し、教育委員会の機能も停止した岩手県大槌町で、駐在勤務をしていた一人の女性指導主事の活躍が記されています。その本の中にある「日本の学校は教育委員会があることによって成り立っている」という言葉もとても印象に残っています。

教育委員会の役割は、時代がどれだけ変わっても、子ども達の笑顔や幸福のために学校を元気にすることであり、非常事態においては学校を支え続ける存在であるということは教育行政に携わるものとしての誇りであり、どんな状況になっても決して見失ってはいけない視点だと肝に銘じながら日々の仕事に取り組んでいます。

学校現場で日々奮闘している多くの教員に「学校は学校だけで成り立っていない」と感じてもらえるような教育委員会で在り続けたいです。


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