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「かがみの孤城」と10代の居場所作りについて思うこと。

辻村深月ブームが自分の中で来ている。
ここ2ヶ月で「冷たい校舎の時は止まる」「傲慢と善良」「青空と逃げる」「ロードムービー」「光待つ場所へ」「氷のくじら」などいくつもの作品を読んできました。ただ僕には辻村深月さんの中でダントツに好きな作品があります。「かがみの孤城」です。

 僕が今、ユースセンターで働くきっかけになった小説と言っても過言ではないです。今日はそんな僕に取って思い出深い物語を、居場所作りという視点も交えながら語っていきます。


そもそも居場所とは

 そもそも居場所とはなんなのか。例えば、僕にとって今の居場所は職場であり、帰省の時に会う友人であり、元同僚であったりする。実家も僕にとってはギリギリ居場所と言っても良いかな。

 そして子どもにとっての居場所は一般的に多くは家庭であり、学校から派生する友人関係であることがほとんど。もちろん習い事等で他の居場所を持っている人も多数いると思うけど、それは家庭の金銭的状況に左右されるもの。

ちなみにこども家庭庁での居場所の定義はこうなっています。

こども・若者本人にとって居心地が良いと思えるものであれば、どんな場所・時間・人との関係性であっても居場所となり得ます。

子ども家庭庁HPより

 本人にとって居心地が良いと思えるかが大事で、それは大人が決めるものではありません。僕も中学1年生から2年生に上がる時、他人の目を気にしてクラスに馴染めている感じがなく、学校がめちゃくちゃつまらない時期がありました。中学に上がる時に転校してきた僕にとって、クラス替えはせっかく築きあげた居場所がなくなる重大イベントで、クラスがまた居心地の良い場所と思えるにはかなりの時間を要しました。側から見たら上手くやっていたと思いますが、今振り返ってもあのクラスを居場所と思えるようになったのは2学期の後半になったぐらいからだと思います。

ヒロインの孤独

まずは「かがみの孤城」のあらすじから。

あなたを、助けたい。 学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていたーー なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

かがみの孤城のあらす

 今回の物語中で大切になことは、孤城に集められた7人が多少の例外はあれど、学校に居場所がないと感じています。また保護者からの理解を得られていない登場人物もいます。

行かないんじゃなくて、行けない。精一杯気持ちを込めて呟くように言うと。お母さんが目の前で大きなため息をついた。自分までのどこかが痛いように顔をしかめた。

かがみの孤城 p14

呆然として、悔しくて、立ち尽くした。どこにも安らげる場所がない。そんなことが繰り返され、そして。決定的な”あれ”が起きて。こころは学校を休んだ。

かがみの孤城 p26

 今作のヒロイン、こころには冒頭から分かるように学校にも家庭にも居場所がない。会いにきてくれる友人に対しても、先生に言われているから、来ているんじゃないかと疑心暗鬼になっている。本文を読むとこころの無力感がありありと伝わってきて本当に辛いです。

「かがみの孤城」のルール

ここからはファンタジー設定ですが、こころの目の前で突然部屋の鏡が光だし、孤城での共同生活が始まります。かがみの孤城のルールは

  1. 日本時間の9時〜17時に開場

  2. 帰らないとペナルティあり(狼に食べられる)

  3. 3月30日に閉場する

ルールはこの3つだけで、それ以外は自由で、来ても良いし、来なくても良い。誰と遊んでも良いし一人で部屋にこもっても良い。そんな場所になっています。
※物語上、鍵を見つけたら閉場というルールはありますが今回は割愛します。

こころの心境の変化。

こころは最初、かがみの向こうに行くことをかなり躊躇します。

行こうか、と何度も思って、だけど足がすくむ。臆病なのかもしれないけど、城への入り口が閉まる5時を過ぎて鏡が光らなくなると、途端に胸がほっとする。

かがみの孤城 p 66

 そんなこころがかがみの向こうに行くきっかけになったのは”願いの鍵”を見つければ、一つ願いをなんでも叶えられるというインセンティブからです。また初めて孤城に入って自分の部屋を見た時、海外の童話がたくさん置いてある環境を魅力的に思っていました。そのような経緯があり、こころは学校に行かない時間を孤城で過ごすようになりますが序盤はまだ不安定です。

こんなふうに、城から家に逃げ帰るのは初めてだ。願いがあるからって頑張ってきたけど、もう限界かもしれない。私はここでも、うまくやれないのかもしれない。

かがみの孤城p106

それでもウレシノとの一件から女子の仲が深まり孤城を自分の場所だと思えるようになっていきます。仲良くなるきっかけが誰かに対するネガティブな感情というのもまたリアルです。

そして今は、城ならばと思い始めている。あの鏡のむこうの城だけが、こころを完全にあの子かたちから守ってくれるような、そんな気が、今はしていた。

かがみの孤城p132

孤城で過ごすうちにこころはかがみの孤城の人間関係からさまざまな価値観や感情を受け取ることになります。

それは新しい発見だったり

驚き過ぎて、言葉が継げなかった。親が学校に行く必要がないと言うなんて。むしろ行かなくてもいい。馴染めないとしてもそれは学校や先生の方が悪いと言うなんて、うちには絶対にない考え方だ。

かがみの孤城p80

憂鬱な気持ちだったり

学校に行かないことで、みんな授業や勉強をどうする気なのか、ずっとフウカたちに聞いてみたかった。急にフウカに先を行かれてしまったような気がして、またお腹がずんと痛くなる。落ち着かない気持ちになる。

かがみの孤城p149

周りを思いやる気持ちだったり

みんな色々な事情がある。これまでに思っていたことだったけど、ウレシノの話を聞いたことで、それをよりはっきり、考えるようになっていた。

かがみの孤城p204

 そして物語上では本当にいろんなことがありながら、こころは城の外でも喜多島先生という理解者を得て、世の中の残酷な真理にも気付きながら、居場所は学校だけではない。「たかが学校」と思えるようになりました。ここに至る心境の変化は僕の力じゃ到底書ききれないので、小説を読んで欲しいです。無理なら映画でも良いです。

学校でも家でもない場所

 大前提として僕は学校で働いていた人間なので、学校という空間が好きです。あの空間でしか得られない栄養のようなものがあるように錯覚してしまいます。それと同時に、学校を居場所と思えない人もかなりいたんじゃないかと推測しています。僕はたまたま踏ん張れたけど、冒頭に書いた中学2年生の時、学校の人間関係でも家でもない場所があったらもっと違った生活が送れたんじゃないかとも思います。

そしてこの物語では学校を居場所と思えないだけでなく、最後まで家庭が居場所にならない登場人物もいました。

 たまたまこの物語では、かがみの孤城という3つ目の居場所があったから良かったけど、現実はもっと残酷で、このような場所に巡り会えない子供達もいるのではと考えています。

いつ来ても何をしても良い場所にプラスして

 かがみの孤城は、何をしても良い場所です。フウカは最初は一人でいることが多かったし、スバルと政宗はずっとゲームをしています。各登場人物が孤城にこない期間もありました。でもその流動性があるから居場所として機能していたと思います。それと同時に、自分好みの部屋だったり、”願いの鍵”というインセンティブだったりと、子どもなので来るためのキッカケのようなものがやはり必要なんだととも合わせて思いました。

 物語の性質上、孤城は人間関係が固定されています。ですが僕が働くユースセンターでは、中高生の誰が来ても良い場所になっています。もちろん学校にいけない子の居場所にもなれればと思っているけど、もっと裾野を広く、いま他にたくさん居場所がある子でも、選択肢の一つとしてあるような場所になれば良いなと思っています。それは居場所が子どもが主体的に定義つけるものだから、いつ居場所と感じられなくなるか分からないというのもあるし、居場所が多い方が、今の自分の居場所を見つめるきっかけにもなるからです。

終わりに

 日本経済の低迷による保護者の疲弊。ブラック労働による学校の疲弊。公園でボールを蹴らせてすらもらえない、世間の子供への寛容度の低さ。SNSの発達。現代の10代を取り巻く環境は難しく、複雑です。

 だからこそ、子どもが家庭と学校以外で、居心地の良いと思える場所を持っておくことが大切で、そのために必要だと言われているのがサードプレイス、つまりユースセンターだと思っています。

 残念ながら現実にはかがみの孤城はありません。”おおかみさま”もいなければ、”願いの鍵”もありません。でもユースセンターは現実にあります。寄り添うユースワーカーがいます。そしてあなたのやりたいことを応援する気持ち、”おおかみさま”のように放っておくこと気持ちも持っています。そして場合によってはやりたいことを実現するためのリソースを差し出すことが出来るかもしれません。ユースセンターはそんな場所です。そしてそんな場所がもっともっと増えて欲しいとも願っています。
 そうは言っても近くにやっぱりユースセンターがないよと思う人は近くの私設図書館のような、誰が来ても良いし、何をしても良い場所を探してみてください。案外学校や家以外の場所はあったりします。

 最後になりますが、例え会うことが叶わなくても、この物語を通じ、文章を通して感情を共有することが、あなたの支えになれたら嬉しいなと思っています。

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