たがためにやく
お祝いにお菓子を作ってもらえたら嬉しい。
そんな言葉をかけられて、私にできるだろうかという不安とやってみたいという好奇心。
好奇心がほんの少し勝ち、頼まれて嬉しい気持ちがちらりと横切ったのを自信のなさに逃げ出す前に捕まえて新しいもの…アップフェルシュトゥルーデルに挑戦することに決めたのは先月のこと。
もし、どうしてもうまくいかなければ、声をかけてくれた友人がかつて美味しいと言ってくれた焼き菓子のなかから作るものを選ぼうと、心に保険をかけて安心、ひとまず試作。
生地を薄く薄く伸ばしてつくるアップフェルシュトゥルーデル。一回目はビギナーズラックで思いの外生地がうまく伸びてくれた。
焼きあがり食べてみるとあまり甘くない。しかしりんごの酸味につられてあれ?甘くない、あれ?計量間違えたかと思う間に25センチほどの一本をぺろり、すぐに食べてしまった。
食べてしまった自分に驚いて、これでいいのか?と、あちこちレシピをみてまわる。
お菓子というには甘くなく、その甘くなさが粋に感じられた
という堀井和子さんのエッセイにほっと胸をなでおろす。
本棚を探すと幾つかの中にレシピをみつけた。ネットを探すと動画もみつけた。
粉を変えて、配合を変えて、焼き方を変えて時間を変えて繰り返す。
寝かせる時間が足りないとうまく伸びていかない。
麺棒ではなく手を使ってするする伸ばすのが指や手のさわる加減によって大小の穴があく。穴をあけないように薄く薄く伸ばしてゆく、柔らかな生地は重力に素直に手からすべるように伸びてゆく。
現地ではりんごだけではなく野菜を包んだり、肉を包んだり、食事用にもなるというシュトゥルーデル生地
するする伸ばした薄い生地に酸味のあるりんご、きび砂糖にシナモンなどのスパイス、ラム酒につけたレーズン。くるくるくるくる包み包んで馬蹄型に焼き上げる。
日々の暮らし、人とのご縁、酸いも甘いも包み込み重ね重ねて幸運を受け止める
見た目は決して華やかではないけれど心からのお祝いに。
そうして作りながらお祝いのお菓子を焼くご縁を頂けたことに深い感謝を感じる。子供の頃から作りたかった憧れのお菓子。
食べてくれる人を思って作る料理は何より嬉しくしあわせな時間だと改めて感じた春のはじめのこと。