翼の名前。#この絵に物語をつけませんか 企画参加
そなたにつばさをさずけよう
こちらの世界へ降りるとき
創造主はそういった。
けれど私の背中には小さな羽の一本もまるではえていやしない。
おたおた歩き回る足と
ばたばたと動かしたところで1㎜たりとも体を浮かせることのできやしない腕。
約束の翼はいったいどこにあるのだろう。
「グリフィン、天駆ける翼をもつものよ。」
創造主だろうか、声がする。
「何故にそなたが想像の世界の生き物と呼ばれているかそのわけを知っておるか?」
知っておるか?だと悠長なことを言っている。
「それは実際に存在しないからでしょう?それより何よりグリフィンなどと呼ばれるのはいささか納得がゆきません。」
不満を隠すことなく意義をとなえる。
「納得がゆこうがゆくまいがそれがそなたのもつ名であろう?」
「では何かの間違いでしょう。何しろ私のこの背中にはグリフィンのような翼はないのですから。」
声の方をきっと睨み、約束の翼を与えられず飛べぬ我が身を呪うと、声の主は異にも介さない様子で答えた。
「グリフィン、哀れな愛し子よ。
背中にあるそれを何と心得る?」
「失礼ながら、先ほども申し上げた通り、私の名前はグリフィンではありません、この背中には何もな、な?」
な、なんということだ?
背中に確かに感じる。
さっきまではなかったはずの、ずっと憧れていたあの、そうだ、その翼が、ある。
「はは、翼。
翼?
翼だ!」
なんてことだ!背中に確かに翼がある!翼だ!翼、ひゃっほぅー!
翼だ、翼!なんて嬉しいことだろう!
ずっと憧れていた翼を授かったこの喜びをなんとしよう。
くるくる回って跳び跳ねる。
何度もふりかえってみる、この背中に確かに翼がある。
この喜びをなんとしよう。飛び上がってしまいそうなこの嬉しさを。
はて、これはどう使うのだ?心は飛び上がるほど嬉しいのにこの手足はしっかりと地面を捉えて離さない。バタバタ羽ばたいてみればよいのか?
バタバタ。
いやダメだ違う、これは前足。
駆けるのか?まてまてこれでは後ろ足と前足が同時に動く。うーん?
羽ばたこうとあれこれ身体を動かすもグネグネとするばかりで立派な翼は美しい形のまま動かない。
「グリフィン?」
「ああ?ああ。はい。翼のある私はおっしゃる通りその名の生き物なのでしょう。しかし、その名を頂くにどうやら私はふさわしくないようです。」
「今度は名にふさわしくないと申すか?」
「ええ。せっかくこんなに立派で美しい翼を頂きながらまるで飛び方がわからないのですから。」
「飛び方とな。そうか、それでは想像してみるとよいだろう。」
「そうぞう?」
「その翼でどんな風に飛びたいのか?どこへゆくのか?飛んでいるときはどんな気分なのか?目的地には何があるのか?ついた先で何を感じたいのか?」
「飛んでいるところを想像するのですか?へえ?あれ?何だ?何か、感じる。」
急に目の前にイメージが広がる。世界の果てしなさを感じられる。
「おめでとう。うまく翼を広げられたようだな。」
「これは?」
「物語の世界だ。グリフィン。そなたは今、色んな作品となっておるようじゃな。」
「グリフィンの物語の話ですか?」
「そうだ。物語の世界と人間たちが現実と呼んでいるものの間には意識というほんのわずかな隔たりがあるだけ。
この世は本来ただひとつの集合体だということを覚えておくとよいだろう。
グリフィン、想像の世界を生きる物よ。そなたはこうして想像の世界に生きる。しかし、いにしえの龍たちのように想像の世界を超えることもいつかできるかもしれぬ。」
「そなたに授けたのはそうぞうの翼。その翼をもってすればどこへいようともどんな状況にあろうともそなたは自由にいられる。その人生、翼と共に存分に駆け抜けるがよい。」
声はどこからしていたのだろう?
頭の上からのような気がするが心の奥底から響いたようにも思える。目の前の画面から急に文字として現れたようにも。
授かったこの翼を広げたらいったいどこまでゆけるだろう。
きっとどこまででもゆけるだろう。
心の決めたその先へ。
※ ※ ※ ※ ※
企画に参加させて頂きました。
このグリフィンに物語、小説、詩、俳句等々募集。
期間は8月31日まで。
企画者の橘鶫さんといえば「的を外れた鳥好き」と自称され、鳥の絵とそこから紡ぐ物語をnoteにあげられています。
私はこの夏、この絵と物語にはまって暇さえあれば読み、読めないときは思い出し、ずっとマカニ(物語の中の国)への旅と現実と思われる世界の二重生活をしていた気分でした。
この「物語の欠片」は長編で始まりの物語「鳥の歌篇」から展開していきます。私は現在6つめの物語。登場人物たちそれぞれの視点から描かれた[天色の風編]を読み終えて、より色濃くなった登場人物たちへの思いと共にまた始まりの物語を読み直して堪能している所。
2021年8月時点では灰色の森、7つ目の物語が最新話。
始まりの物語、「鳥の歌篇」を読み直したらこちらへ取り掛かる楽しみをとっておいています。
そんな物語を紡いでいらっしゃる橘鶫さんの企画。
締め切りギリギリ。夏休みの宿題は最終日に慌てていた子供時代の癖がいまだに抜けない。長くなりましたがお読み頂けましたら感謝します。
ありがとうございました。
読んでいただきありがとうございます。 暮らしの中の一杯のお茶の時間のようになれたら…そんな気持ちで書いています。よろしくお願いいたします。