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あなたがいるから、世界は面白い
ゴールデンウィーク前半の初日の夜。
誰も家にいない。
腰や膝の調子は良くなってきた。
3ヶ月ぶりに行くか。
行きつけだった、歩いて一分の「灯明」さんに行った。
相変わらず美味しかった。
特に旨い日本酒のお燗は久しぶり。こんなにお米の酒とは美味かったのか。
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酒も呑兵衛もトロトロです。
大人しく飲もうと、気をつけながら飲む。
時々、若いオーナーの富樫くんと話していると、間接的に、隣の若いご夫婦とも話をし出すようになる。
店を出る頃には、随分昔から知り合いみたいに話をして、別れを告げた。
こういうお店で、カウンターで、初めて会った人たちと、話をし始めるには、いくつかのルールがあって、それに沿って話し出すと、話が思いがけない、お互いに関心のある共通点の方向に行く。
一つこちらがリアクションしたら、相手のリアクションを待つ。その「間」を楽しめると、「場」が楽しくなる。
やはり、随分飲んでしまった。
「これから家に帰って一人で反省会(二次会)です」と言ったら、ご夫婦はビックリして笑ってくれた。
誰もいない家、午前3時ぐらいまで、永遠とユーチューブで、自分の好きなアーティストのライブ動画を見続けた。
自分のスペースと家族を隔てるのは1枚の厚いカーテンのみ。
変な動画を見るわけでなくても、他の家族の気配を感じないのは時に至福だ。こんな時間はいつぶりだろう。
朝、目が覚める。
猫が私の右腕で寝ている以外は、誰もいない。
寝ては起き、を繰り返す。インフルエンザにでもならなければ、あり得ない時間の過ごし方だ。
昼になり、上野の麻婆豆腐の旨い店に自転車で行って、食べて家に帰る。
今日は、歩いて30秒のおぐセンターの二階で、「即興と反復」というテーマで演劇がある。
2年ほど前に、この町に稽古場を持ってくれた若手の演劇集団「円盤に乗る派」の即興パフォーマンスだ。
円盤に乗る場メンバーと米澤一平が送る
— ビリー (@nonsensebilly) April 5, 2024
2時間の即興パフォーマンス&トーク!
これであなたも即興見巧者に?
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即興と反復 番外編「いろんな人がいる」
4月29日、おぐセンターで開催!
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出演は小澤南穂子、柿内正午、渋木すず、辻村優子、長沼航、西尾佳織、蜂巣もも、日和下駄、米澤一平、涌田悠。 pic.twitter.com/OxuyuHdXvC
タイプの違う4人が、テーマを決めず、時間だけ決めて、ヨーイドンで誰かが動き出し、それに呼応したり、全く無視しながらパフォーマンスを行う。
5分やっては、オブザーバー?司会の人?が、それに対して感想やコメントを5分していく。
それを2セット。
その次は15分やって、15分の司会者のコメントタイム。
これで一時間経ったので、休憩が入り、次は30分の即興と20分のコメントタイムで終わりだ。
最初のうちは、観劇と言うよりも、演劇のレッスンに間違えて入り込んでしまったかのような、時間が続いた。
何気ない所作にも、いろんな意味があるのだろう。
そのうちに、なんとなく場が温まってきたのだろうか、4人のパフォーマンスする人達、それぞれの個性が出てきた。
自分自身に空想を持てる余裕が出てくると、この場でウォッチしているあの俳優さんだったら、どんなリアクションをするだろうか、突然観客にパフォーマンスを振られたら、自分なら何をするだろうか、などと考える。
普段の天ぷら屋での接客や、偶然隣り合った飲み屋さんのカウンターの人達との相互リアクションも、考えてみると即興なんだな、きっとこういう観劇経験を自分なりに咀嚼すると、より、日々が楽しくなるのかな、と思いながら、観劇した。
休憩の後は、三十分の即興だ。
パフォーマーの中で、「円盤に乗る派」の中心人物の日和下駄さんが、パフォーマンスの中で、何故この街に来たか、この街はどんな街か、問わず語りに語りだした。
こうして、演劇の中で、この街の話をしてくれるのは何ともありがたいことだし、その温かい眼差しに頭が下がる。
この街の店の紹介の最後に天ふじを入れてくださった。
そして、オブザーバーであり、この企画の責任者が私と同じ苗字の長沼航くんだ、という話の流れで、何と私にも、会話に入るように話が振られてしまった。
「えっ、これって演劇のパフォーマンスの中に自分も入るっていうこと?」
パフォーマーの一人のタップダンサーが、どんどん私に話しかけてくる。
答えるしかない。
私がパフォーマー気取りで応えたら絶対に観ている人は気分を悪くするだろう。
あくまでも、普通に、それでいて、少しでも全体の流れをぶち壊さず、問われた話には、観客の人たちに最低限聞こえる声の大きさで、かと言って私の声など聞きたくない人には、最低限スルーできる感じで。
パフォーマーの人も、もちろん即興だから、どこで私との会話を終わらせるか、筋書きがない。
どんどん話が進んで行きながらも、そのタップダンスの人は、舞台となっている部屋から、タップダンスの靴で天ぷらの揚げている音を表現しつつ離れていって、私も、ここからは観客に戻っていいかな、というタイミングで、視線を舞台に戻すことができた。参加して、とりあえず役を果たせた!
何とも不思議で、幸せな時間だった。
その後は、日和下駄さんが、動物のイラストが描いてある絵を見ながら、眼の前に浮かんだ言葉を弾丸のように飛ばして喋るくだりが、圧倒的に面白かった。
表現が好きな人には、宇宙全体が表現の対象なんだろうなぁ。
自分を含めて、学校で席に大人しくし座るのがしんどかった人、今しんどい子どもたち、頭の中で言葉が溢れてしょうがない人たちへ。
めちゃくちゃ面白い人たちが西尾久にはいるよ、いてくれてるよ。安心して。
いつか、遊びに来てね。
せっかくだから、親も道連れにしちゃおう。
そんなあなたがこの世界にいてくれるから、世界は面白い。