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【シアターコモンズ'24】 私たちはイランのこども 私たちは 『Songs for No One– 誰のためでもない歌』をめぐって
ウルリケ・クラウトハイム(ゲーテ・インスティトゥート東京・文化部企画コーディネーター) ____________________ 暗転中から鳴り響く呼び出し音。鳴り続けても向こう側に誰も出ない……相手の登場をあきらめかけたころ、ついに、少年の陽気な声がペルシア語で聞こえてくる。舞台上に座るパフォーマーで、本作の演出も手掛けたナスタラン・ラザヴィ・ホラーサーニとの電話での親しげな会話。ペルシア語のわからない観客には、時々混ざる英語っぽい単語「ギター」や「オンライン」などしか
【シアターコモンズ'24】神話をとりだす、やさしげな手─サオダット・イズマイロボ 『彼女の権利』『亡霊たち』『ビビ・セシャンベ』が描き出す世界
中村佑子(映画監督・作家) ____________________ 日仏学院の映写室が明るくなった瞬間、自分がいま存在している「この現在」という時間が、遥かな歴史の流れのなかの針の一点に過ぎず、莫大な記憶と、まるで過去のような未来に照射される形でしか存在しないこと、それが論理ではなく身体感覚としてわかる、そんな映像体験だった。身体ごと、どこかへワープするような衝撃が走ったのだ。 ウズベキスタンの女性映像作家、サオダット・イズマイロボが描き出すのは、現代の神話であり、異土
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I/EYE(アイ)をめぐるテクノロジーとリアリティの条件──スザンヌ・ケネディ&マルクス・ゼルク/ロドリック・ビアステーカー『I AM(VR)』評
清水知子(筑波大学准教授) ______________________ ドイツの演出家スザンヌ・ケネディの『I AM(VR)』に足を運んだのは、東京が二度目の緊急事態宣言下にあった2021年2月17日のことだった。 これまでベルリン・フォルクスビューネ劇場とミュンヘン・カンマーシュピーレを拠点に『ウーマン・イン・トラブル』(2017)、『バージン・スーサイド』(2017)、『三人姉妹』(2019)を手がけ、ポストヒューマン演劇の旗手と言われる彼女にとって、本作は初の