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カオスが見た夢

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”とても複雑な物語だった”となんとなく記憶している
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1章 黒い石版と刑務所の相関性

1章 黒い石版と刑務所の相関性

1 個室=男+むかむかその貧相な一室には尾はうち枯らした三十男と、爆発寸前の“むかむか”が詰まっていた。世界の極北ともいうべき劣悪なDVD映画を見ることは先進国に暮らす人間なら誰しもあることだ。その男が直面した事態もまたそういうことだった。ただでさえ、ごちゃごちゃしていた男の精神模様はこんな状態に陥った。――「なんてこった。おれはこんなくそみたいなDVDを2時間も見ちまった。最初はパッケージのすけ

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2章 猫が運んできた有意な夢

2章 猫が運んできた有意な夢

6 ホテルまでの案内スピードボートの上の風景は、大友克彦のGペンが表したかのような直線的かつ繊細な描線でできていた。瞼にぶつかる風はあまりにも激しく、ボートの行き先を直視するのは難しい。緑色の海がへさきに切り裂かれこなごなの白い泡を吐いていた。空気を切りつけるやかましい風の音が耳に飛び込んでもくる。そのボートはものすごい速度の中にいた。つまりどこかを目指している。

強い日差しがゆらゆら波打つ海面

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第3章 白いワンピースの女

第3章 白いワンピースの女

16 ショベルカー式嘔吐おえええええええ――

おえええ、おええええええ――

ハヤタはひとところの遠慮もなく徹底的に嘔吐した。体のバランスのすべてが狂った。計測器の針がぐるぐる回るのが目に浮かびそうだ。

“断末魔”が部屋に深く響き渡った。ぜひゅう、ぜひゅう、ぜひゅう。彼の息は数マイルを疾走した若馬のようだ。肺が重たい。胃にかぶさりそうなほどだ。彼は「嘔吐時の基本姿勢」と保健体育の教科書に載せら

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第4章 異星人の考察

第4章 異星人の考察

24 「奇跡」は20億キロメートル先までをも包含する「奇跡」が起きたその一室には小さなはえが飛んでいた。はえはその赤い複眼に極小カメラを、つんとした尻には極小マイクを搭載した情報収集用無人機だ。それが獲得できるオーディオビィジュアルは質がかなり高く、ハイヴィジョン放送に耐えられるレベルに達した。

その注目度の高い情報は気が遠くなるほど遠いところへと運ばれる。なんとベオウルフビルから20兆キロメー

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第5章 仮想現実より愛をこめて

第5章 仮想現実より愛をこめて

28 そして女は目を覚ました彼女は波うち際に倒れていた。深く混乱している。うなぎが頭蓋骨のなかを泳いでいる気がした。芯を深い痛みが打ち抜いている。視界のすみっこの色彩がおかしく、見たものを理解する速度はひどく緩慢だ。視力と思考の間にかなりのタイムラグが生じている。吐き気を催してもいた。腹の底がじんじんと熱を帯びている。視線を走らせて自分の体を確かめる。白いワンピース、裸足。けがはしていない。体温は

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第6章 セブンイレブンとマクドナルドの惨劇

第6章 セブンイレブンとマクドナルドの惨劇

40 セブンイレブンのフランチャイジーの受難ここで、強盗の受難者に視点を移そう。

そのセブンイレブンは開店15年だ。駐車場は乗用車12台を収容できるスペースがある。周囲のタワーマンション、リッチな道路事情が運んでくる乗用車、客入りは悪くなかった。不思議なことにそのセブンイレブンには立ち読み客というものがなかった。客はおしなべて富裕層で、そんなことをするまえに、雑誌を買って、部屋のウン十万だか百万

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第7章 渋谷族×渋谷王国×渋谷鹿

49 猿楽町のファンキーテクノクラート代官山・猿楽町。そこで「家賃高すぎだよ」と言いながら服飾店を経営しているやつがいた。そうは言っても彼が売る服は、エッジの立った若者にかなり売れていて、懐具合はよかった。コンセプトは「オフィスで着れるスライ&ザ・ファミリー・ストーン」。ぎらぎらとしたふくれ上がるギャラクティックさ、オフィスで魂を失った労働機械のムードというそう反する要素を合体。「ファンキーテ

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