私たちは食べる。痛みとともに。ー「一流シェフのファミリーレストラン」
動画配信サービスのディズニープラスにあるコンテンツ「一流シェフのファミリーレストラン」というドラマを見始めた。結果的に内容に対して不思議すぎる邦題がつけられているが日本支社とて苦渋の決断でつけたのだろうと推測される。曲がりなりにも映画会社に出向していた経験がある自分としてはこの邦題つけというのが難儀なもので、どんなに「原題のままでいいじゃないか」と現場の人間が訴えたところで「日本では原題のままだと売れない」という謎の定説を上または本国アメリカからたたきつけられて四苦八苦するという構図を何度か見てきた。だからそこは批判などせず、まずはこの作品が日本で見られるということに謝意を表したい。憶測であり実際の理由知らないけれども。
「ファミリーレストラン」などというからアットホームな感じ、さらにディズニープラスが配信とあらば厨房に暮らすネズミ一家が人間のシェフと一緒にレストランを盛り立ててさあ大変、みたいな内容かと油断して再生ボタンを押すとケガをする。そこにはアットホームな感じなど1ミリもなく、ドラマの主戦場となる店の厨房は朝の仕込み中から喧嘩状態、口が悪すぎる従業員たちに汚いキッチンが展開される。アメリカの厨房ってこうなのか、と絶望すらする。1日もバイトが続かない自信がある。
シェフでありこのシカゴにあるサンドイッチ店を切り盛りするカーミーは、自殺した兄からこの店を引き継いだ。兄は人望があり店の従業員からも愛されていただけに弟のカーミーはそこにも葛藤があるし周囲も悲しみから抜け出せていない。ここまででもう重い、なかなかに重い。
もともとカーミーはニューヨークの一流店で働く料理人だったが、そこでは料理長からひどいパワハラにあっていた過去がある。自分自身のメンタルすり減らしながらも、料理と向き合い、口の悪い従業員たちを従えて罵声が飛び交う中、借金まみれの店をなんとか切り盛りし、また兄の死と向き合っていく。
ストーリーはまあこんな感じで進んでいくのだが、特筆すべきはなんといっても料理である。熱したフライパンにリードルがあたる音、オリーブオイルにどっぷり溺れたニンニクが焼けるさま、厚さ30センチはあろうかという肉の塊、プラスチック容器に乱雑に入れられた大量のマッシュポテト……見ていて幸せな気持ちになり、そしてお腹が空く。痛みの中から生み出された数々の料理は皮肉にも人々を幸せな気持ちにする。
ちなみに後半4話は怒涛の展開で、長回しでの独話や混乱状態に陥った厨房の限界、それでも生きていく人間の在り方がアップテンポに、しかし確実に描かれる。
最初は料理見たさに見始めたドラマだったがいまやこの料理人たちひとりひとりの人生から目が離せない。シカゴという町の雰囲気も楽しめ、アメリカ特有のシャレの利いたセリフ回しも聞けて楽しい。とにかくセリフが多く、それなのに演技とは思えない俳優陣の力量にも圧倒される1話30分のドラマである。明日からシーズン2を見始める。すでにシーズン3の制作が決定したようなので、帰宅後や何も予定をいれない週末のための楽しみが増えたのであった。
ドラマを1話見終わるごとに料理したいなと思うのだが、思うだけで自分の弁当は相変わらず雑なままだけどそのうちやる。弁当に対して怒鳴る人がいなくてよかった。
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